企業によるSDGsの取り組みの中で、本業で収益と社会価値を両立させ、持続可能な世界の実現に向けた統合行動の一部として特に優良と思われる事例をいくつか紹介します。また、末尾に数千件のSDGs優良事例を参照できる事例データベース群を載せています。

第一次産業:農業、林業、漁業、畜産業等

● ファーマーズ・ビジネス・ネットワーク:自己流の農業を行っている小規模農家をネット上のプラットフォームで結び付け、個別の情報を収集してビックデータを構築。各農家に最適な農業のノウハウ及び最適な農機具・農薬等を提供。

●住友林業:山林の持つ生物多様性の保持力とCO2吸収力を最大化しながら、森林資源を活用。CO2吸収量の多い若木を育て、CO2吸収量の少なくなった古木を伐採。木材の運搬や管理にはAIやドローンの技術の活用を推進。

●ウミトロン:水産養殖のプロセスの多くが未だに勘や手作業に頼っているという現状に対し、生産性の向上と漁業者の安全性と効率性の改善のため、自動化、コンピューター化を推進。AIとIoTを駆使して、水産養殖で最も手間とコストのかかる給餌の自動化や魚群行動を解析。

インフラ業:電気、ガス、上下水道、通信、運輸、建設、不動産等

ヤマハ発動機:自然界の砂、砂利、水中のバクテリアなどによる緩速ろ過式浄水設備により途上国の河川や湖沼の表流水から1台で1日あたり8,000リットル(約2,000人分)の浄水を供給。単純な構造によりメンテナンスが容易でランニングコストが低いため、地域の人々だけで自主運営が可能。

●戸田建設:環境省の実証事業により長崎県五島市の近海にて世界初の浮体式洋上風力発電ハイブリッドスパー型(下部コンクリート、上部鋼)を設置。五島市とともに洋上ウィンドファームの実現を目指し発電事業を運営。

●LIXIL:シンプルな設計で丈夫かつ安価で購入・維持管理ができる簡易式トイレ「SATO」を世界27ヶ国で販売。既に約300万台が出荷されて1500万人の衛生環境に変化をもたらしている。世界の約6億人は未だに野外排泄をしており、開発途上国の農村では約7割。不衛生な状況は感染症の蔓延や悪臭などによる生活環境の低下を招いている。

●パナソニック:国連開発計画(UNDP)のBusiness Call to Actionにも登録されている「ソーラーランタン10万台プロジェクト」にて、途上国で使われている灯油ランプよりも、明るく、燃料代が安く、黒煙を出さず、環境にも優しいソーラーランタンを提供。

●Zip Line:ルワンダ全土の病院に輸血用の血液を届けるドローン輸送網を構築。道路や線路が敷設されていない僻地であっても数分で輸送が可能。日本などの先進国にもない世界初の仕組みをアフリカで開発、実用化。将来的には血液以外の輸送網にもなり得る。

●Google:社員は勤務時間の8割を仕事に費やし、残り2割は好きなことをする。後者は大きな社会課題、今までにない技術、及び革新的な方法論、により、ムーンショット的発想で新規事業やインフラを創出している。

製造業(素材)

●バイオマスレジン南魚沼:日本の米どころ新潟県魚沼でお米のバイオマス・プラスチックを製造。価格の高い普通のお米ではなく、捨てられるお米や非食用米を原料として使用。非食用米を低コストで生産する方法を開発し、自ら手掛ける。同様のビジネスモデルを日本の他の地方やアジア諸国に展開。

製造業(加工組立):機械・自動車等

●テスラ・モーターズ:電気自動車(EV)の開発で世界を牽引し、SDGsやサステナビリティの潮流及びESG投資を惹きつけ、自動車のスタンダードをガソリン車からCO2を排出しないEV車へ移行する流れを創出し、加速させている。イーロン・マスク氏が一代で創業した同社は、2020年7月、自動車の生産台数では30倍以上となるトヨタ自動車を時価総額で超え、世界一になった。

●GE(ゼネラル・エレクトリック):エコロジーとイマジネーションを掛け合わせた「エコマジネーション」という造語をつくり、企業にとってコストとみなされていた環境への対応を本業のビジネスチャンスと再定義。現在、売上の6割を占める。

●コニカミノルタ:自社製品全体におけるCO2排出量の8割削減を目指すとともに、自社の優れた省エネ手法をデータベース化し、取引先と共有。サプライチェーン全体でのCO2削減をリードすることにより、自社にとってのエネルギーコストを減らしながら、同時にCO2という地球や社会にとってのコストを削減。

●トヨタ自動車:CO2排出ゼロなどの環境に対する目標をまとめた「トヨタ環境チャレンジ」を考案し、自社だけでなく、取引先にも同様の基準の受け入れを依頼。4万社の取引先の環境対応を一斉に引き上げ、他業種にも同様の取り組みが広がった。

●Apple:RE100(企業活動におけるCO2排出量ゼロを目指す国際的なイニシアチブ)等のサステナビリティに関連する国際的な動向を一早く取り入れ、国際的な潮流の形成に向けたリーダーシップをとっている。

製造業(生活関連):食品・医薬品・衣服等

●ネスレ:共通価値創造(CSV)の経営コンセプトを考案。自社の提供価値を収益に直結する経済価値だけでなく、社会価値と知識価値を加えて定義。また、その提供先を顧客だけでなく、サプライヤー・ディストリビューター、競合他社、社員、地域社会、政府、株主と定義。途上国の貧困層に対してミロを始めとした驚異的に低価格の栄養機能食品を提供。将来の中間層マーケットにおける熱狂的なファンを産み出している。

●伊藤園:茶畑での茶葉生産から店頭での茶殻販売までを一気通貫で行う独自のビジネスモデルを活かし、農家、農協、茶業の研究・普及機関、取引先企業、大学等との連携により、日本全国に広がる茶産地の地域活性化を推進。高品質で安定的な茶葉の調達という自社にとっての価値を確保することと、農家の安定経営、地域の雇用創出、CO2削減、生物多様性の保全といった社会価値創出を、一体的に実施。

●味の素:共通価値創造(CSV)の概念を13年かけて自社の組織文化に取り込み、「Ajinomoto Shared Value(ASV)」というSDGsやサステナビリティと親和性の高い独自の経営戦略を考案。美味しく食べて健康になる(Eat Well, Live Well)という標語の下、先進国の成人病や途上国の栄養不足の問題に食を通した解決策を提供し続けている。

●住友化学:マラリア感染という課題に対し、「蚊帳の使用率の低さ」ではなく、「蚊帳の防虫性能の低さ」という要因を特定。工場の虫除けの網戸として使われていた技術をもとに、防虫剤処理蚊帳「オリセット®ネット」を開発。WHOから世界初の長期残効型蚊帳として効果認定され、UNICEFを通じて、80以上の国々に供給されている。

●サラヤ:アフリカで現地生産の消毒剤と使用方法を含めた衛生マニュアルをセットで提供。感染症の蔓延という課題に対し、「手が汚れている」ではなく、「手に菌がついている」という要因を特定。手を洗うという習慣をつけさせることは難しい中、「手間のかからない消毒」という解決策を提示。

●キリン:人々の健康課題に対し、「医療体制の問題」ではなく、「セルフケア不足」という要因を特定。「食」領域(酒類事業、飲料事業)と「医」領域(医薬事業)の中間に「医と食をつなぐ」事業を立ち上げた。プラズマ乳酸菌などを始めとした科学的論拠のある「健康機能性素材」という解決策を開発。

●マクドナルド:「持続可能な食材の調達」を掲げ、認証を取得した食材の流通を促進。フィレオフィッシュの白身魚をMSC認証の魚に変更。ポテトを揚げる油をパーム油からRSPO認証の油に変更。コーヒー豆を森林や生態系を守り、労働者に適切な労働条件を提供するレインフォレスト・アライアンス認証を取得した農園が栽培するコーヒー豆に変更。

●ユニクロ:「サステナブル」であることが、「かっこよさ/可愛さ」、「ブランド」、「値段」といった服を選ぶ時の基準の一つとして定着させることを目指す「サステナブル・ファッション」を推進。ダウンジャケットの羽毛を再利用した特別仕様の商品を販売。

●大川印刷:「環境印刷」を掲げ、石油系溶剤を全く使わないインキと、FSC森林認証を受けた紙による印刷を実施。また、中小企業でありながらRE100に賛同し、国内の太陽光や風力発電施設を活用した再生可能エネルギー100%によるゼロカーボンプリントを行っている。

●フードエコロジーセンター:年間612万トンはっせいしている「食品ロス」を減らすため、食品廃棄物からリキッド・エコフィードという発酵肥料を製造。また、毎日、約35トンの食品循環資源から、約42トンの飼料をつくり、契約養豚事業者に提供。食品ロスの回収と飼料の提供の両方で収益を得ている。

●会宝産業:日本では売れなくなった使用年数や走行距離の多い中古車から部品を取り出して販売する「静脈産業」を牽引。地方の中小企業でありながら車両仕入れから解体・部品管理・販売までを一元管理できる仕組みを構築し、業界全体に公開。中古自動車部品規格基準を設置。中南米やアフリカ諸国にリサイクル工場、技術研修センターを立ち上げ、海外にも展開している。

卸売業・小売業

● 楽天:エシカル消費(社会貢献や社会課題解決に取り組む企業を応援することを商品選択基準に入れた買い物の仕方)をしたい人のために、認証を取得した商品、SDGsやサステナビリティの観点で優良な商品だけを扱うEC(E-Commerce)サイト「Earth Mall」を構築。

●ホールフーズ:コンシャス・キャピタリズムを掲げ、経営者とはお金を稼ぐ能力に長け、企業を成長させるのが役割ではなく、社会全体の利益のために奉仕する志を持ち、全てのステークホルダーの満足と企業の成長を両立させるのが役割であるという新しい資本主義を提唱。

●メルカリ:廃棄物削減に対して最も効果的な方法とされるリユース(Reuse:不要になったものを別の使用者や用途で使い続けること)を携帯アプリによるICTテクノロジーを利用して世界規模で展開。日本初のSDGsやサステナビリティの仕組みとして世界に広まっている数少ない例。

● イオン:国内外で二万店舗のネットワークを通じ、消費者にとってサステナブルな商品の購入のできる場所を提供。「トップバリュー」というブランドでは、消費者の声を反映し、環境に配慮しながらもより良い商品を手ごろな価格で提供するための多様な商品を開発。MSC認証、ASC認証などの認証を受けた食材を積極的に活用。

金融業

●グラミン銀行:地方の農村の貧困女性を5人1組にして信用力を高め、小売店、通信業、流通業など小規模な事業の起業資金を貸し出し、事業収入で返済するマイクロファイナンスを展開。全世界で8兆円産業に成長。返済率は98%を達成。同時に借り手となる貧困女性たちに現金収入手段を与え、村全体の生活水準も向上させている。事業利益、株主配当、融資利息等により得られる収益を、全て社会課題解決のための再投資に回すソーシャル・ビジネスという新しいビジネスの在り方を考案。

●三菱UFJフィナンシャル・グループ:大手銀行として世界に先駆けてSDGs達成に貢献する事業へ資金を提供する「SDGs債」を当初2,000億円規模の計画で発行。SDGs債は地球環境のために使われる「グリーンボンド」、社会課題解決のために使われる「ソーシャルボンド」、及び両者に向けた「サステナビリティボンド」という3つの債権を組み合わせ、特にSDGsへの達成への使途に焦点を絞っている。

●Safaricom:人口約4,800万人のケニアにおいて3,200万人が使用しているモバイル決済サービスM-PESAにより、銀行口座を持てない貧困層でも金融サービスを利用し、市場アクセスのできる仕組みを構築。2019年時点で、年間に約23億米ドルを売り上げながら、100万人の直接・間接的な雇用を産み出している。

●クラウドクレジット:事業者の返済能力を評価の上、融資用のファンドを組成し、出資者を募って得た資金で融資を行うソーシャル・レンディングを展開。融資という商品は同じだが、資金調達プロセスを変えることで貸付先や貸付条件に幅を持たせることができ、途上国支援や社会課題解決などより広い金融ニーズに応えることができる。また、通常の預金よりも高い利子率で出資者に還元できる。

●Global Mobility Service:車を買いたくてもローンの審査が通らないために購入できない世界20億人(途上国では車の購入を希望する人の9割、日本でも3割)のために、Fintechによりローンを組める仕組みを構築。

サービス業:教育、コンサル、エンジニアリング、飲食、娯楽、生活等

●Airbnb:日常生活から離れ長期の旅行や現地滞在を通じて社会課題の原体験を得る「サバティカル」というツアーを催行。南極調査隊やバハマ諸島の観光ボランティアなど、SDGsの示す世界中の課題の現場を体感できる。旅行というサービスを通して娯楽と持続可能な社会の実現に資する原体験とを同時に提供することで、社会課題への共感を広げ、旅行から戻った後の生活や仕事での自主的な取り組みを促している。


優良事例データベース

企業によるSDGsへの取り組みの優良事例は国内外に多数あります。様々な機関がデータベースを構築していますので、それらを活用するとより多くの事例に出会うことができます。ここでは、その一例をご紹介します。

1 SDGs 産業マトリックス(SDGs Industry Matrix)

https://www.unglobalcompact.org/library/3111
業種別に企業によるSDGsへの貢献活動の事例とアイデアを掲載。国連グローバルコンパクト(UNGC)作成。2015 年発行。

2 SDGs のためのイノベーション/Society 5.0への道のり

https://www.keidanrensdgs.com
経団連が作成した日本企業によるSDGs事業の優良事例集。業種別とSDGsゴール別で検索することができる。2018年発行。

3 欧州のSDGs 実践に関する調査

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11507557
世界全体でSDGsの取り組みが特に進んでいる欧州における企業によるSDGs 実践の優良事例集。日本貿易振興機構(JETRO) が作成。2019 年発行。

4 JICA 民間連携事業

https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/index.html
国際協力機構(JICA)による民間連携スキームの一つであり、SDGsへの貢献を目指す日本企業の有望な事業に実証試験の資金を提供している。SDGsビジネス支援や中小企業支援などの過去に実施された案件の概要を参照できる。随時更新。

5 ビジネス行動要請(BCtA: Business Call to Action)

http://www.undp.or.jp/private_sector/bcta.shtml
国連開発計画(UNDP)が認証している企業のSDGsへの貢献事業集。優良事例として選定されたのち、UNDPとともに事業を発展を続けている。随時更新。

6 持続可能な開発目標(SDGs)への科学技術イノベーションの貢献

https://www.jst.go.jp/sdgs/
SDGsに貢献する科学技術という観点で評価した企業のSDGs実践事例。科学技術振興機構(JST)が作成。企業、政府、教育機関などの幅広い事例が参照できる。2018 年発行。

7 SDGs に取り組む中小企業等の先進事例の紹介

https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/sdgs/sdgs_senshinjirei.html
日本の中小企業に限定したSDGsの先進事例。経済産業省関東経済産業局が取りまとめている。

SDGs Eラーニング事例編 ~ 企業によるSDGs実践の優良事例