多くの企業がSDGsに取り組んでいますが、自社の商品や事業活動が先にあり、SDGsを後から紐づけていることがあります。その結果、企業はSDGsについて十分に意識していないため、表面的な取り組みになりがちです。しかし、後付けでSDGsに取り組むと、社会的な成果や自社の成果が出ない可能性があります。では、表面的な取り組みとは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

1.ESG投資・サステナビリティ報告に形式的にのみ対応している

ESG投資は2020年時点で3,400兆円に達し、ESG投資の資金流入によりテスラが生産量では30倍のトヨタを時価総額で逆転するといった現象も起きている昨今、環境、社会、ガバナンスという「非財務的価値」で投資家や格付機関から高い評価を得ることは、上場企業にとって避けられない課題となっています。

また、その前提として気候変動を中心とした各種の規制や消費者、取引先、労総者等からの評価向上を目指して、統合報告書やサステナビリティ・レポートを中心としたサステナビリティ報告も主流化してきています。ESGやサステナビリティ報告の基準やガイドラインは世界で乱立している状態にあります。

こうした基準やガイドラインは、それぞれ方法論が異なります。しかし、ほぼ共通して、1)評価・開示項目を網羅的に開示すること、2)それらの中で自社の重点課題(マテリアリティ)を決める事、3)顧客以外のステークホルダーを幅広く考え、全体への価値提供を優先順位付けに反映させること、を求めています。

現状、ESGやサステナビリティの観点で外部から低評価されないように多くの上場企業がこうした基準やガイドラインに則って、開示やマテリアリティを進めています。しかし、SDGsは、重点課題を考える前に自社の企業理念に基づく目的(パーパス)や経営方針を考える際に検討されてこそ真価を発揮します。ESGやサステナビリティに対しても、とにかく基準やガイドラインにキャッチアップすることが命題になってしまうと、そもそもの目的や意義を充分に理解しないまま作業だけ進めているということでもあり、望ましくない状態です。

2.既にある商品や事業とSDGsを紐づけただけで実質的に変化がない

実際にはSDGsに取り組んでいないにも関わらず、表面的に取り組んだ”ふり”をして対外的なイメージだけを高めようとする企業の行為は「SDGsウォッシュ」と呼ばれ、消費者、投資家、従業員、規制当局等のあらゆる方面から厳しい批判に晒されています。

一方で、「SDGsウォッシュ」とまではいかなくとも、もともとの商品や事業にSDGsを貼っただけで、実質的に変化のない状況に陥っている企業が多くあります。SDGsの取り組みにおいて成果の出ない企業の多くはむしろこちらのケースが多いと言えます。

経営や担当部署できちんとSDGsを勉強し、経営や事業に真面目に取り込もうという意思はあるものの、統合報告書や中期経営計画、ウェブサイト・パンフレット、各種広報物などに表面的に言葉が躍るのみで、今までと大差ない仕事の仕方を続けていては、外部から見れば、いろいろと考えているように見せているだけで、結局自社のイメージ・アップにSDGsを利用しているように映ってしまいます。

3.アウトサイド・インで考えられない

通常、企業は今期の売上や利益をもとに来期の見込みを立てています。これは、自身の現状から次の一歩を考える「インサイド・アウト」という考え方になります。上記で登場したESG投資やサステナビリティ報告における重点課題も、自社の商品や今やっている事業活動が起点となり、それが社会や環境に対してどのような正負の影響を与えているかを考えるものであり、やはりインサイド・アウトの発想法になります。こちらの考え方の方が、多くのビジネスパーソンが慣れ親しんだ常識となっています。

一方で、SDGsやイノベーション創出のために必要とされる考え方はその逆で、将来のあるべき社会や自社の姿から自社の次の一歩を考える「アウトサイド・イン」となります。SDGsは持続不可能な今の世界を持続可能にするため、解決しなければならない課題を示したものです。そうした社会のあるべき姿に対して、自社が何をすべきか、どんな存在意義が出せるのかを考えることを通して、本質的な取り組みになっていきます。

インサイド・アウトとアウトサイド・インの違いは、概念としては容易に理解できます。しかし、実際にアウトサイド・インの発想で企業としてものを考えるというのは極めて難易度の高いことです。

知らず知らずのうちに、もとの慣れ親しんだインサイド・アウトの考え方に戻っていきます。その方が安全で、楽な上に、短期的な視点では正しい事のように思えるからです。SDGsについて腹落ちした理解をしている社員の少ない企業では、インサイド・アウトの考え方こそ利益に直結するという主張が大勢となり、結果的にSDGsに本気で取り組む形にはなっていかないケースが多くあります。