近年、ESG評価機関がAIを使って企業の統合報告書を評価する動きが広がっており、そうした評価機関の動きに対応して、企業は統合報告書等を発表する際にAIが認識・評価ができる(マシンリーダブルな)形にして自社の評価を高めようとする企業が増えています。

 しかし、AIのアルゴリズムを一定程度予測して対応することはできますが、完全に把握して対応することは困難です。また、AIからの評価を高めようとアピールをし過ぎて仮に実態が伴わないとグリーンウォッシュとの批判を受けることにもなりかねません。こうした状況で企業はどのように対応していくべきでしょうか。

評価機関によるAIを活用したESG評価

 評価機関等のAIは一般的に気候変動などESGの文脈で頻出する単語や表現、評価対象企業が検索される際に用いられるESGに関連する単語をリストアップし、それらの単語と当該企業のCEO発言やプレスリリース、統合報告書の内容など対外的に公開されているものに使用されている単語・文章とのマッチングを通じて、当該企業の評価を行います。このため、企業はいわゆるSEO対策のような手法で、評価が高まりそうな単語を予測し、それらの単語や表現を報告書等に盛り込むことで一定程度評価を高めることができます。

 自社の活動に対して正当な評価を受けようとする取り組みは、ESG投資を呼び込み、サステナブルな社会の実現を推進することにつながるため、社会にとって望ましい企業活動です。しかし、評価機関のAIは日々進化しているため、アルゴリズムを完全に予測することはそもそも困難です。

 また、自社の公開情報においてESG評価機関からの評価を高める可能性が高い単語をすべて反映させるには相当の労力がかかることに加え、外部評価を高めることに拘り過ぎると、評価基準や評価結果に振り回されることになりかねません。

AIによる評価に振り回されず、本業を通じて実質的にサステナビリティを推進する

 SDGsの目指すサステナビリティの観点から考えれば、外部評価を高めることを気にし過ぎるのではなく、経営が本業において実質的なサステナビリティの活動に取り組むことにコミットし、経営戦略や事業計画、組織制度に反映させることが重要です。これにより、社員はサステナビリティに貢献する本質的な活動に取り組むことができるため、自然とESGに関する問題解決を推進することになります。そして、その結果として当該企業の企業価値も高まるのが本来望ましい姿と言えます。

 例えばユニリーバは、人と環境にポジティブな変化を起こす自社の製品をサステナブル・リビング・ブランドとしています。同ブランド製品は2018年度の実績において、同社の他の事業よりも69%も速いスピードで成長し、全体的な成長の75%を実現したと発表しています。このように、外部評価を気にし過ぎることなく、本業において経済価値と社会価値を両立する活動を着実に進めていくことが、結果として、企業の価値と社会からの評価を高めることになるのです。

 こうした事例を参考に、まずはそれぞれが自分の業務において、本質的な変化を起こすにはどうしたらよいかを考えることから始めてみましょう。