最近、テレビ、新聞、雑誌等のメディアやビジネスシーンにおいて、”SDGs”を耳にすることが多くなってきたと思います。山手線がラッピング電車を走らせたり、バッジをつけるサラリーマンが増えたり、小中学校の教科書に取り込まれたりと、普段の生活の中でもよく見かけるようになりました。
SDGsとは、
「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と言われます。
2016年から国連と193か国の全加盟国の合意の下で始まった2030年までの世界の共通目標です。
特に民間セクターへの浸透が急速に進んでおり、2019年の政府調査によれば、日本の上場企業のSDGs認知度は96.7%に達しました。日本全体での浸透度はまだまだですが、朝日新聞の調査によると、関東圏では23%に達しています。今後、更に浸透が進んでいくことが予想され、成長を続ける企業と第一線のビジネスパーソンにとってSDGsは既に”標準装備”となっています。
「持続可能」って何?
持続可能な開発という言葉は、1987年に国連の環境と開発に関する世界委員会の報告書で提唱された概念で、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義されています。
一見当たり前のことのように聞こえますが、将来世代の欲求が満たせなくなるとは、一体どんな状況なのでしょうか?
SDGsの言う「持続可能」とは、分かりやすく言えば、
境界線を越えない
という意味です。
現在の世界は、日々急速に変化し続けています。この変化には良い側面と悪い側面との両方があります。例えば、経済成長が起これば、会社が儲かったり、たくさんの人のお給料が増えたりして、私たちの暮らしは潤います。
その一方で、大量生産・大量消費が進み、ごみの量が増えたり、海や陸が汚れたり、資源が枯渇したり、不平等が拡大したりしています。これらは一定程度までは回復可能ですが、
境界線を超えるとコントロール不能になる
…ことが過去の経験から分かっています。
これは、人体がある一定のダメージまでは病気やケガとして回復が可能であるのに対し、一度死に至ってしまえば、その後どのような医療を施しても回復不可能であることに似ています。
例えば、森林伐採は一定程度までは樹林によりもとに戻せますが、ある一線を超えるといくら樹林しても元には戻らず、砂漠化の方向へ進んでいきます。
国と国との関係は、ある程度まではケンカしても仲直りできますが、ある一線を超えると戦争という殺し合いでしか決着がつかなくなります。
世界や国の経済はある程度までは金融政策・財政政策等でコントロールできますが、ある一線を超えると大恐慌やハイパーインフレーションとなり、自然に底を打つまで回復の見込みがなくなります。
「開発」とは何か?
そして、「開発」とは、
人類の進歩
を意味します。
経済が成長する、民主主義がより機能する、文化が豊かになる、社会が平等になる、自然が栄え緑豊かな地球になる、技術が進歩して人々がより賢くなる等々、
すべてが進歩です。
つまり何が言いたいのか?
したがって、「持続可能な開発目標」とは、
世界が限界線を越えることなく、人類が進歩を続けるために、人類みんなで守らなくてはならない目標
ということになります。
一見、野心的なゴールを掲げているように見えるSDGsですが、実は長期的な視点では人類の最低生存レベルを達成することが念頭にあります。
つまり、裏を返せば、
このままの進歩の仕方を続けていたら、地球と人間社会が壊れてしまい、人類は反映し続けることができない
つまり、
私たちが住む今の世界は持続不可能である
と言っているわけです。
という問題提起をし、世界全体がその見方を公式に受け入れ、共有したのがSDGsなのです。
一部の活動家だけが騒いでいた様々な社会問題の全てを、国連と193か国のトップが正式に自身の責任として受け入れ、改善を約束したということは、人類史上、一つの転換点となる大きな出来事といえます。
SDGsの原文となる『我々の世界を変革する ― 持続可能な開発のための2030アジェンダ』では、その理念を示す前文においてSDGsは「世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとる決意」であると表現されています。
また、第14節で語っている「今日の世界」に関する認識では、「多くの国の存続と地球の生物維持システムが存続の危機に瀕している」ことが明確に認められています。
そして、そうした状況に対し、これまでの人類の進歩の方向性を変えるために世界中の人々が力を合わせて活動することを呼び掛けているのがSDGsです。
前文には、次のように書かれています。
「我々は、貧困を終わらせることに成功する最初の世代になり得る。同様に、地球を救う機会を持つ最後の世代にもなるかも知れない。」
未来の子孫たちに、我々の世代はどちらの見方をされることになるのでしょうか。それは、SDGsによって世界が統合行動を起こせるかどうかにかかっています。
SDGsの内容
SDGsの原典は、2015年9月に開かれた国連持続可能な開発サミットの成果文書、
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」
です。
SDGsはいろいろな形で理解され、解説されていますので、正しく理解するためにSDGsを扱う方は原典を一度は読んでおくことをお勧めします。
それほど長い文章ではなく、上記のリンクに日本語訳も出ていますので、30分もあれば読めます。
SDGsは17個のゴールと、それらの構成要素となる169個のターゲットによって構成されています。
[持続可能な開発目標(SDGs)]
1 あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
2 飢餓に終止符を打ち、食糧の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
4 すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し生涯学習の機会を促進する
5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
6 すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
7 すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
8 すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する
9 レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
10 国内および国家間の不平等を是正する
11 都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する
13 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
14 海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
15 陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
16 持続可能な開発に向け平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
17 持続可能な開発に向けて実施手段を強化しグローバル・パートナーシップを活性化する
SDGsの17ゴール及び169ターゲットはこちら
2030年までの間、国連が責任を持って進捗を管理し、毎年1回、国連ハイレベル政治フォーラムで 国連事務総長が達成状況を世界全体に報告することになっています。
SDGs設立の経緯
SDGsの前にも、2001年から2015年までの15年間を担う世界の統一目標
ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)
がありました。
MDGsは、世界の貧困削減を中心とした8つの目標がありました。
[ミレニアム開発目標(MDGs)]
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
目標2:初等教育の完全普及の達成
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
目標4:乳幼児死亡率の削減
目標5:妊産婦の健康の改善
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
目標7:環境の持続可能性確保
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
SDGsとMDGsの大きな違いは以下の点です。
(1)MDGsは政府間合意でしたが、SDGsは採択の前段階として、国連や政府などの公共部門だけでなく、 全世界の民間部門や一般の市民社会からも広く解決すべき課題を聴取し、取り込みました。特に、MDGsの時代には環境破壊や格差拡大の原因の一つとして語られることの多かった民間企業が、社会課題の解決者として明確に位置付けられた点は大きな違いと言えます。
(2)MDGsが取り込んだのは世界の課題の一部でしたが、SDGsはエネルギー、気候変動、都市、貧困等、主要な社会課題に関する国際潮流を統合しました。特に、MDGsの外で進んでいた気候変動枠組み条約(COP)を基軸とした環境問題及び開発資金に関する国際会合の統合のインパクトは大きかったと言えます。
(3)MDGsは先進国による発展途上国への支援という一方通行型でしたが、SDGsは「誰一人取り残さない-No one will be left behind」を理念とし、世界中の誰もが実施者となり、誰もが恩恵を受けるという設計になっています。
MDGsは開始当初15億人いた世界の貧困人口の半減という目標を達成し、目覚ましい成果を挙げました。一方で、8つの目標の多くは未達成の状況となった上、世界の急速な変化と複雑化の進行により、それら以外のたくさんの課題が新たに出てきました。
そこで、国連が中心となって、2011年頃から「ポストMDGs(MDGsの後をどうするのか)」の議論が国際社会で始まりました。
その後、2012年6月のRIO+20という国際会議の成果文書「我々の求める未来」にて方向性が決まり、2014年の国連総会で新たな開発目標「ポスト2015開発アジェンダ」として検討され、SDGsは成立に至りました。
参考リンク
主な公的機関によるSDGs解説もご紹介します。