情報開示基準の概要と発効時期

2023年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の議長、エマニュエル・ファベールは、ISSBが18か月にわたって取り組んできた2つのサステナビリティ関連情報開示基準であるIFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とIFRS S2「気候関連開示」を公開しました。

IFRS S1は、企業が短期、中期、長期にわたって直面するサステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報の開示要件を定めています。IFRS S2は、気候関連情報の具体的な開示を定めており、IFRS S1との併用が前提とされています。

これらの情報開示基準は2024年1月から発効される予定です。

IFRS財団の歴史的経緯と投資家保護の意義

ISSBは、これらの基準を通じて、世界中で共通のルール(グローバル・ベースライン)を確立し、企業のサステナビリティに関する比較や検証が可能な情報を提供し、より正確な投資判断を可能にすることを目指しています。

本基準の発表に際してファベール議長が行ったスピーチでは、ISSBが所属する国際会計基準(IFRS)財団が、1980年代に急成長した(当時の欧米の視点から見れば)不十分な会計基準しか存在しなかった韓国、シンガポール、台湾、香港の「アジアの虎」と呼ばれる国々にも適用可能な会計のグローバルベースラインを構築し、米国の投資家を保護するために設立された歴史的な経緯について述べられています。

つまり、IFRSは歴史的に企業の情報開示をグローバルな基準に整え、より多くの情報から適切な投資判断を可能にすることで投資家を「保護する」(損失を最小限に抑える)ことを目指している組織と言えます。

ISSBは、情報開示基準をTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みに沿って構築しています。TCFDは2015年にG20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)によって設立された機関です。FSBは、リーマンショック後の2009年に設立され、世界の金融安定を目指しています。

TCFD報告書の冒頭では、2008年から2009年の金融危機が企業のガバナンスとリスク管理の脆弱性が資産価値に与える影響を示す重要な出来事であったと述べられています。これにより、企業のガバナンス構造、戦略、リスク管理の透明性への要求が高まりました。正しい情報がなければ、投資家や他の関係者が資産を適切に評価することができず、資本の誤った配分を引き起こす可能性があるためです。

つまり、ISSBとTCFDは、投資家の保護という共通の目的を持ち、情報開示基準を通じてその目的を達成しようとしています。

ISSBへの企業の捉え方と対応の重要性

ISSBが投資家保護を主な目的としている場合、投資を受ける側の企業はISSBをどのように捉えるべきでしょうか。ISSBの開示基準が求める情報は、投資家がリスクを適切に管理する上で必要な情報となります。したがって、企業はこのような要件にしっかりと応じることでリスクを低減するだけでなく、他社よりも効果的かつ効率的な対策を講じ、独自の取り組みを強化し、明確かつ適切な情報を発信することが重要です。これにより、投資を引きつけやすくなります。

サステナビリティの動きは市場環境の変化において不可逆的なものと考えられています。つまり、情報開示の要求も、加速し強化される傾向があり、後戻りはありません。企業は、将来の競争力を左右するため、投資家を含む社会の要求に対応し推進するための情報開示要求に沿った戦略、組織、資源の適切な配分に関してPDCAを多く回し、経営リスクを減らすと同時に、新規事業等の必要な投資を行うことが重要です。