”この報告書は、サステナビリティに関するデータを経営戦略に生かすべきという経営者へのメッセージと共に、サステナビリティ関連の業務を担う担当者や、コンサルティング会社の方が顧客とディスカッションをする時にも役立つのではないか”

ワーキンググループ委員、株式会社野村総合研究所三井千絵上級研究員

2023年7月「サステナビリティ関連データの効率的収集と戦略的活用に関するワーキング・グループ」という経済産業省「非財務情報等開示指針研究会」のワーキンググループが「サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書」を発表しました。国際的なサステナビリティ開示基準の議論が行われ、「また開示が厳しくなるのか」と憂鬱になっている企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかしこの報告書は「サステナビリティ関連データは開示の為だけではない」と言っています。

同報告書は想定する読者として、第一に上場企業の経営者を挙げています。ではその上場企業の経営者に対するメッセージとは何なのでしょうか?本記事では同報告書の概要と想定メッセージについて紹介します。

報告書の目的

同報告書の目的は、「サステナビリティ関連データ(以下、サス関連データと省略)の効率的な収集と戦略的活用を通じた企業価値の向上の後押しをすること」です。具体的には、①サステナビリティ経営の重要性について経営者及び取締役会の理解醸成、②経営者及び取締役会のリーダーシップ発揮の必要性の発信、③サス関連データの収集における課題と対応の方向性整理、④サス関連データの活用事例の提示を通じて、企業価値向上の後押しをすることです。

つまり、サス関連データの収集・活用がサステナビリティ経営の実践において必須だが、経営陣にその理解が十分にないことをはじめ、様々な課題によりサス関連データが十分に活用されていないので、経営者がリーダーシップを発揮してサス関連データを収集・活用できる体制を構築するためのガイドを提供し、企業価値向上を支援することが目的という訳です。

報告書の概要

同報告書はまず、サス関連データを「企業価値に影響を与える将来のサステナビリティ関連のリスク及び機会への洞察を与えるデータ」と定義し、経営戦略上サステナビリティ経営の実践(モニタリング、分析、意思決定)に不可欠であり、財務データと同等の企業経営の根幹をなす価値があるものとしています。しかし、現状の課題として、多くの企業において開示要請の高まりや法規制への対応を目的としたサス関連データの収集と開示は進んでいるものの、経営戦略に活用するという発想にまで至っていないこと、そして、必要なデータを収集・活用するための体制・オペレーションの確立が不十分であることを挙げています。

その課題認識の下、同報告書はサス関連情報を①開示、②規制対応、③経営戦略への活用という三位一体の形で用いて企業経営の高度化と企業価値の向上を図ることが必要だとしています。そして、メインパートとしてサス関連データの収集における課題と対応策を示すと共に経営者に対してリーダーシップを発揮して実行するよう訴えています。

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