基調講演:「SDGs入門 元国連広報官が教えるSDGsの基本と始め方」
一般社団法人SDGsアントレプレナーズ代表理事 青柳仁士
今日はSDGsとは何かという正しい理解と(What)、なぜ重要なのか(Why)、そしてどうやって取り組んだらいいのか(How)ということについて説明します。
私はSDGsが始まった2016年に国連開発計画(UNDP)の駐日代表事務所の広報官を務めていました。SDGsの広報、普及のために政府やメディアなどと話をし、民間企業に勤めた経験があったので、企業がどうやってビジネスでSDGsを達成するのか、取り組むのかということに力を入れていました。
その前は国際協力機構JICAの職員を10年以上勤め、アフガニスタン、スーダンなどいろいろな国に赴任し、2001年から世界の環境問題や開発の問題に取り組んでいました。
本日は(1)SDGsの基本と本質、(2)企業にとってのSDGs、(3)SDGsの始め方―の3点について、話をします。
(1)SDGsの基本と本質
SDGsのロゴが、電車やバスや飛行機のデザインに取り入れられるなど、いまでは街中のいたるところで見るようになりました。国の各省庁はそれぞれの立場でSDGsを推進していまして、例えば文科省は学習指導要領の中にSDGsを取り入れました。受験や日々のテスト、教科書にも既に載っており、これからもっと増えてくると思います。ことになります。
SDGs未来都市ということで、60個の自治体が現在SDGs推進の中核地として活動しています。これから5年間、さらに毎年30ずつ、150自治体くらい増えていきます。東京オリンピック、パラリンピックでもSDGsのコンセプトが謳われており、2025年の大阪万博はSDGsをメインテーマに掲げ、実験場にすると大きくうたっています。
では、SDGsって何かと言いますと、17項目の「ゴール」のうち、例えばゴール1であれば、「あらゆる場所であらゆる形態の貧困に終止符を打つ」というような具体的な言葉があります。
それぞれのゴールの下にはサブゴールといいますか、もう少し小さなゴールがぶら下がっています。これを「ターゲット」といいます。ゴール1なら「2030年までに現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」というような内容になっています。このターゲットは全部で169個あります。
すなわち17個のゴール、169個のターゲット。これをSDGsと言います。
SDGsとは何か。簡単に言いますと「2016年から2030年までの15年間、世界と人類が目指すべき目標」です。193カ国のトップが2015年に合意をしました。99%以上のメジャーな国はすべてこれに賛成したものです。
なぜ、このSDGsが大事なのかというと、割ととんでもない事を言っているからなのです。
どういうことかと言いますと、SDGs=サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ、日本語では「持続可能な開発目標」なのですけれども、じゃあ、持続可能な開発ってどういう意味なのか。
持続可能とは「境界線を越えない」という意味です。例えば環境分野において、森林の問題であれば、森はある一定程度まで切っても同じように植えれば元に戻ります。ところが、ある一線以上切ってしまうと、同じだけの量の植物を植えても元には戻らないんです。生態系が破壊されてしまうからです。
そういう一線、あるいは境界線というものが存在します。これは経済も政治も外交も同じです。ある一線を越えてしまえば、戦争に向かって走っていく、恐慌に向かって転がり落ちていく。この一線を超えないことを「持続可能」という風に言っています。
すなわち、SDGsとは「この境界線を越えないで、人類が進歩し続けるための目標」ということです。要するに「今のこの世界は持続不可能」だと言っているんですね。
これを193カ国、ほとんどすべての国のトップが、自分たちが住んでいる地球と人類が持続不可能だということ認め、その解決策についてまとまって合意をしたということは、この2万年の人類の歴史において初のことです。実はこれが非常に重要なことです。
2001~2015年の15年間、MDGsというものがありました。これは、「ミレニアム開発目標」といいまして8つの目標です。ここでは世界の貧困を半減するという目標を掲げました。
2001年は、米国経済の失速や同時多発テロなどにより世界経済が同時に減速し、日本では就職氷河期と言われた時代で、そんなにいい時代ではありませんでした。ところが、これを達成したのです。これまで世界が歩んできた道を変えるためにみんなで行動を取ろう、アクションしようというアイコン、象徴としてMDGsがあったことが達成力を高める最大の要因となりました。
SDGsはMDGs よりも遥かに多くの課題と関係者を包含しており、力があると言われています。持続不可能な世界を持続可能にしていくための人類の統合活動、これを呼びかけているのがSDGsです。
(2)企業にとってのSDGs
「96.7」
この数字は何だと思いますか?
2019年度の日本の上場企業のSDGs認知度です。年金を管理している「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)が2017年から毎年調査しています。
私が国連の広報官を務めていた2016年頃は、調査したらおそらく一けたの数字だったと思います。これだけ浸透が一気に進んできています。
なぜ多くの企業がSDGsに取り組んでいるのか。実は単なる善意で取り組んでいるわけではないのです。その一つには、「顧客と競合」の変化があります。東京のある大手素材メーカーと一緒にSDGsの取り組みをやっていたことがあります。ビジネスは順調だし、業界トップですが、そこが急にSDGsをやると言い始めた。
実は取引先のトヨタ自動車が2015年にサステナビリティに関する大方針を打ち出し、SDGs的な要素をサプライヤー選定に取り入れるということがあったのです。自動車の部品が作られる過程も含めて、バリューチェーン全体でCo2を減らすという発想です。
そうなると、今までトヨタと取引をしていた会社にとっては、今までは品質とコストさえよければトヨタに選んでもらえたものが、そこに社会価値や、SDGsというものがないと、競合に負けてしまうという状況になってきました。周りの競合社を見てみると、SDGsにキャッチアップしている状況があって、これはまずいということで進めたという事例が実際にありました。
このようにBtoB、あるいはBtoCにおいても、社会価値や社会課題への取り組みを、その企業を選ぶ理由として考える顧客、あるいはそれにいち早く動いて対応してくる競合他社というものが存在し、それによりSDGs認知度が急速に進んでいるという面があります。
もう一つは「株主と投資家」です。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資というのがあります。これまで企業の価値というのは、売り上げや収益力、成長によって計られていました。けれども、非財務的価値の部分、その企業が社会に対してどれだけ良い影響を与えているのかによって、企業価値というのを評価しようじゃないかと、こういう仕組みがいま急速に進んでいる状況があります。
さらに「社員と外部人材」。自分がなぜこの会社で働くのかという理由で「給与が高いから」「福利厚生がいいから」「有名な会社だから」などがあると思いますが、「自分の信じている、正しいことをしっかりやってくれる会社だから」とか「自分が社会的にこれから成し遂げたいことをやらせてもらえる会社だから」という理由でその会社を選ぶ人が若い世代を中心に、どんどん増えています。
今、優秀な人材を採用するのは難しいですが、とどめておくことはもっと難しいですよね。ですから優秀な人材に長く働いてもらい、モチベーション高く働いてもらうために、企業はSDGsに取り組んでいくということが非常に重要になっています。
もう一つは「政府や規制当局」です。経団連の企業行動憲章の中にSDGsが入っていますが、JETRO(日本貿易振興機構)が2018年に調べた調査では、SDGs関係の規制は世界で50以上あって、今も増え続けています。日本政府も各省庁一丸となっていますので、SDGsは「やらなくてはならないこと」といえるほど、市場環境の変化が訪れています。
他方で、損得だけで動いているわけでもない面もあります。
世界では毎年540万人の子供たちが5歳未満で死亡しています。そのうち310万人は栄養不足が原因です。1年は365日ですから、だいたい1日に1万人近くの子供が栄養不足が原因で亡くなっているのです。
もし皆さんの子供だったらどうでしょうか。亡くなってしまう子供はかわいそうですが、その周りの人達は一生その傷を抱えて生きていくでしょう。これが1日1万回も起きている。
これは17あるゴールのたった一つです。こういった問題に対して何とかしなきゃいけないのではないか。そこはビジネスや損得ではなくて、人として自分のできることをやらなきゃいけないんじゃないか、という気持ちを世界中の人が持っているという事なんですね。
ですから単なる市場環境の変化や損得だけではなく「共感」が広がっていて、これがSDGsを推進している大きな力なのです。
ビジネス面においても、皆さんの企業がやっていることを顧客が共感してくれれば、皆さんの商品やサービスを選んでくれるでしょう。「共感」というのは非常に重要です。
(3)SDGsの始め方
最近、企業の中には、ブランディングツールやESGで高評価を得るためだとか、自分をよく見せるためにSDGsを使おうという企業が非常に多くみられます。
本気で取り組んだ結果、外にアピールする時にSDGsを使うのは問題ありません。まずいのは外によく見せようということだけを目的にする企業が結構あります。
なぜ、それがよくないかというと、一つは自分達をよく見せることだけに使っても、実際に世界は何も変わらないので、社会的には無価値だからです。
こういった行動は「SDGsウオッシュ」と言われています。SDGsを使って“洗う”、自分自身をきれいに見せるという意味です。こんな言葉があるぐらいですから、そもそもよく見せようとしている相手(顧客、ファン、パートナー、投資家など)からはよく見えていないということですから、あまり意味がない。やめたほうがいいことなのです。
では、どういう取り組み方をしたらいいのか。例えば、国連やJICAとも一緒にグローバルな社会課題に取り組み続けてきた、味の素では、経営の中にASV(Ajinomoto Group Shared Value)(リンク https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/csr/asv/index.html) というSDGsをそのまま経営戦略化したような指針を取り込んでいます。
CSVはもともと同社のライバルでもあり、世界一の食品会社であるネスレが取り組んでいる経営戦略として有名でした。「ネスレプラス」という言葉があり、SDGsのような社会価値に対して本気で企業が取り組むことにより、従業員のモチベーションが非常に高い。このモチベーションの高さが目には見えないけれども、誰も真似できない競争優位だとネスレは言ってるわけです。ESG投資基準に合わせて自らを革新していったり、研究開発の中に社会貢献できるものを作ったりと、自主的な活動をしている企業というのもたくさんあります。
そういった企業とSDGsウオッシュ企業の最大の違いは何かと言いますと、2点あります。一つは、本業で取り組んでるのかどうか。二つ目は社会と自社の慣行軌道を変えているか。この2点に注目すると、SDGsウオッシュなのか、本質的なSDGsの取り組みなのかがある程度は判別できるんじゃないかと思います。
これから取り組む方々はぜひ、こういう点を注意してみてください。
とはいえ、あんまり難しいことを考えずに、まずはやってみることが非常に重要です。企業であれば、まずは担当者から始める。個人であればまずは自分から始めてみる。(襟につけたSDGsバッジを示し)こういうバッジつけてみるだけでもいいと思うんです。これをつけて街を歩くだけでも結構背筋が伸びる。手元にペットボトルがあったら、もう「ビン・カン」と書かれているごみ箱に面倒臭いからという理由でに突っ込むなんてできなくなります。そういう気まずさとかを感じることが重要です。「知っていること」と「理解していること」は全く違います。頭で分かったつもりになるのではなく、どんな小さなことでも実際に自分でやってみて実感してみることが大事です。
「あなたにもできる17のミニゴール」というものを考えてみました。ことで、まず残さず食べるだけでもフードロスという面でSDGsに繋がる。またセクハラっぽいことがあったら、なあなあにせずきちんと言うとか、スイッチをこまめに消してみるとか、いろいろな人とランチに行ってみる、私も国連にいた時はやっていましたが、ダイバーシティ、多様性というものを大事にしようとする人は、いろんな人とランチに行くことがダイバーシティ力を高める最高の方法だと思います。自分の中でいろいろな人を受け入れられる素地を作ることが、不平等をなくしたり弱い立場にいる人に手を差し伸べるような発想を持つ上で非常に重要だからです。
それから、例えば家電製品を買う時に、コストや品質だけで選ばないで環境性能を見てみるとか、SNSで社会的に流行らせた方がいいと思ったものはちゃんとシェアをするということも重要だったりします。
企業や組織、自治体としての大きな取り組みは先ほどの軸で本質的な活動をしてほしいですが、それを始めるに当たって、難しいことを頭の中で考え続けても答えは出ないので、まず自分から始めてみようと考えたらだんだんと組織としてのSDGsの取り組みの勘所が見えてきて、素晴らしいものに発展させていけると思います。
トークセッション
各企業の発表に対するコメント
青柳 まずもって、素晴らしいフォーラムだったなと思いました。発表された取り組み内容で非常に優れたものがいくつもありました。私もこういう仕事柄、あるいは以前、国連職員としてSDGsのシンポジウムやフォーラムによく出させていただくんですけれども、世界に発信しても恥ずかしくないと思うようなものがいくつもありました。
見附市さん。まさに自治体のリーダーが最も取り組むべき仕事をされているなと。多くのSDGsの課題というのは、解決策がないものが多いんですね。その解決策のない問題をどうやって解決するのかといえば、それはリーダーになる人が解決策をつくり出していくしかない。
また、その時にリーダーとして優秀であるとか、あるいは能力があるというのも大事ですが、大切なことは正しい取り組み方をするかどうかです。
SDGsの場合はゴールやターゲットに取り組むのではなくて、それらを引き起こしている原因に取り組むことが大事です。たとえば貧困であれば貧困そのものではなくて、それがなぜ起きているのかという原因が無数にあります。その無数にある原因の中から一体どれが一番鍵になっているのかを考える。すぐにわかる原因はとっくに誰かが取り組んでいるか、取り組んでいるが解決できない難問になってしまっています。何が鍵なのかを知るためには、視点を変えて課題を見ることが大事です。先ほどの話でいいますと、歩く効果っていうのは足し算が可能であるということや7対3の法則の発見から見えてくるものがあったと思います。
課題側に新しい発見があれば、新しい解決策は必ず生まれます。解決策側から考え始めたら何も新しいものは出てきません。
それから、SDGsを企業や組織で実際に進めていこうとする方が必ずぶつかる問題として、周りが動かないことがあると思います。その時に最も有効な方法というのは、危機感を醸成することだと思います。「これをやらないと会社がつぶれますよ」「これをやらないと死にますよ」。同じように「4000歩、歩かないとうつ病になりますよ」というアプローチは効果的というか、よく考えられているなと思いました。
長岡技術科学大学さん。一番面白いなと思ったのは、SDGsっていうのは実は一番先頭に新潟があった、みたいな話ですね。大学として取り組んでいたことがSDGsだったということを冒頭におっしゃっていました。たとえばサーキュラー・エコノミーというSDGsが描く未来の姿で、具体的にそれって何なのと言った時に、「実は燕三条の包丁だった」みたいな話ですね。
SDGsで言っている事って日本が昔から取り組んできたことなんじゃないか、という素朴な疑問、その答えは YES だと思います。ただ世界の主流のサステナビリティの議論の中で日本は全く評価されてません。実態としてはすごいんです。ですからこれを世界の言語できちんと発信していくこと、それこそ博報堂さんみたいに人の心に刺さるようなデザインだとか、あるいはその語り方というものを使って世界に発信していくことが重要で、そうでないとただの独りよがりになってしまう。
世界はいま、SDGsや持続可能な社会方向に確実に向かっていますので、その方向の先には日本があるんだということを世界に認めさせる努力が必要です。今は何か全然違うものが次の時代にやってくる感じになっている。そうではなくて日本が昔から大事にしてきた理想の社会が世界のスタンダードになるんだと。もっと具体的に言えば、次の世界が目指す先には新潟があるということを堂々と世界に向けて主張することが肝心です。そのためにも、この長岡技術科学大学がやっているような、国連アカデミックインパクトでのハブ大学として発表していく、あるいはユネスコのSDGsのインスティチュートになっていくという取り組みはとても意味があります。
新潟大学さん。プロダクトアウトからマーケットインへという、民間企業にも通じるSDGs実践の基本中の基本が、この施策に落ちているなって気がしました。技術や解決策から何をやるかを考えるのではなくて、佐渡島にいる人々の生活からどんな課題が、どういう解決が必要かと考えて、商品であれ、研究開発であれ、技術であれを考えていく。こういう人々が生活の中で抱えている課題から始まる人間中心のアプローチに、SDGsの理念が反映されているように思います。
ビデオも流れましたが、自分で腹落ちしている社会課題を解決するための取り組み方をしている時の人間って、とても生き生きとするんですよね。民間企業であっても、地域の方であってもそうですが、自分たちの身の回りの課題を解決するんだ、そのためにこの仕事をしているんだという時に、おそらく人というのは一番モチベーションが高く、かつ能力を発揮するのではないかと思います。そういう人々の中に眠る潜在的な力を引き出していくことが一見不可能にも見える持続可能な社会の実現、すなわちSDGsの達成のためには不可欠です。海外のホールフーズやネスレやGEといった会社は、まさにそういう力を、企業の人事戦略に組み込んで活用していたりもします。
村上市立荒川中学校さん。実は教育というのはSDGsのリーサルウェポン(最終兵器)ですよね。SDGsが当たり前だと思う世代、SDGsについて働くことに何の疑問も思わず、かつその能力が現代を生きている我々よりも高い世代というのが、大人になり、現役になり、偉くなり、力を持った時にこそ、最終的にSDGsは一気に広まっていくでしょう。こういう世代を自身の手で育て上げている教員の方々の日々のお仕事は、未来を変える大事な一歩一歩といえます。
中学校の事例はこれまでもたくさん見てきましたが、今回のご発表はとにかく取り組みがすごかったなと思いました。18班が新潟巡検を行いSDGs35カ所に出掛けていくとか、ラジオ出演とかレポートだとか、ちょっと普通だとありえないレベルのことをやっている。しかも一つ一つのクオリティーが非常に高い。
「ESD(エデュケーション・フォー・サスティナブル・デベロップメント)=持続可能な開発のための教育」によりミレニアル世代、あるいは Z 世代、SDGsネイティブ世代などと呼ばれている若い人たちをどう育てるかというのは重要な課題と言われています。しかし、文科省やUNESCOのガイドラインなどは世界中の多種多様な教育現場において深みを持って使えるレベルとはいい難く、やり方は正解がない状態といえます。荒川中学校のような現場での先進事例やベストプラクティスみたいなものを一つ一つ重ねていく中で、最終的にこれがいい方法だって全国、全世界へ展開することになっていくんだと思います。その意味で、個人の先生の熱意でここまで突出している進めているこの事例は、本当に素晴らしいなと思いました。
一正蒲鉾さん。まさに本業でSDGsに取り組むという事例ではないかなと思いました。さっき申し上げた、ゴールそのものに取り組むということではなくて、その原因である減塩などに取り組んでいくような課題を特定している点、それを国際言語で発信しているということで、NCDsとか、あるいはWHOとの連携でやられているところが非常に優れていると思いました。
アドバイスをするとすれば、減塩というのはあくまで顧客にとっての経済価値のうち、特に技術に関する言葉ですので、SDGsの文脈では、社会に対する提供価値の言葉を使って表現してみても良いのではないかと思います。例えばスターバックス社、本社の方ですけれども、自分のことを喫茶店とは絶対に言わないですね。「サードプレイス」という風に言っていて、会社と家がファーストプレイス、セカンドプレイスなんですけど、「三つ目の落ち着ける場所、自分らしくいられる場所がスターバックスです」という言い方をするわけです。
あるいはネスレ社は自分たちを食品会社とは言わず、「自分たちは世界の健康をつくる会社である」、あるいは「餓死をする子どもたちを救う会社である」という言い方をします。ですから、減塩という言い方よりも、もう少し、社会全体、顧客や投資家、あるいは周りの人達の共感を呼ぶような発信の仕方というのがSDGsをヒントにひょっとするとあるかもしれないと思いました。
柏崎信用金庫さん。共感を呼ぶデザインの力とか、世界に発信する際の語りかけという意味で、綾子舞のパッケージとか非常におしゃれでかっこいいですよね。ああいうものは特に外国人受けしますので、ああいうものを日本のブランドとして発信していけば、共感を広げる一つの手段として良いんじゃないかと思いました。
原信ナルスオペレーションシステムさん。SDGsの社内浸透を一人の担当者の熱意だけで実現したということで、他の会社にとって勇気づけられる事例になっている気がしました。「SDGsを社内に広めたいが、周囲が巻き込めない」という話はよく聞きますが、こういうやり方で一歩一歩進めていけば、浸透していくんだなあと改めて感心しました。
同業他社やいろいろなパートナーと一緒にごみのリサイクルのコストを下げたいと仰っていましたが、これはCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)、共通価値創造と呼ばれる戦略の中でもその重要性が指摘されています。単純にコストと価格と品質だけで競争する持続不可能な社会を前提としたマーケットというのは、どこかで必ず変化を余儀なくされます。これはハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授という、戦略の神様といわれる方の主張なんですけれども、これからの時代はパートナーを巻き込みながら従来の経済価値に社会価値をどう乗せていくかが勝負になってくると。そういう意味では、まさに先進的な取り組みをされていると思いますし、 ISO 14001を取得されているのが原因だと思いますが、様々なプロセスや成果を数値化されているのは素晴らしいですね。
ナレッジライフさんの発表は、世界へ出しても通用するような内容だったと思います。フィーチャー・フィットなど国際的な動きと連動している事もあって、意識が高いからだと思うのですが、日本の中小企業は、本当に飛び抜けた技術を持っているんですね。
私もついこの間、九州のあるメッキ会社と一緒に仕事をしたのですが、環境分野での技術は高く、かつ意識も高い。日本では名前をあまり聞いたことがないような中小企業でも、世界の中心にポーンと飛んでいけるぐらいの力を実は持っている可能性がある。
世界へ飛躍する鍵は、さっき申し上げた通り国際的な言語できちんと語れるかどうかです。ほんのちょっとした違いなんです。国際会議のど真ん中で話し合われていることと、ナレッジライフさんのやっていることがほとんど同じようなことだったとしても、ちょっとした言葉の違いとか、ちょっとした発信の違いで議題に上がらない。国際舞台における日本の主張は、こういうことが繰り返されています。
最後のバイオマスレジンさん。SDGsで一番重要なのはバックキャスティングだと仰っていました。バックキャスティングをするためには構想を描くことが重要なんですね。これから先、未来、将来がどうなっていくのかも大事なのですが、それ以上にどういう未来をつくりたいのかということを、経営者や地域の人たち自身が考える事が重要で、その面白そうな構想にいろんな人を巻き込んでいけるかどうか。
SDGsの中で一番重要な慣行軌道を変えないと、世界はこのまま続いていかないって言われているわけですから、続いていかないこの未来の進み方をどう変えていけるか。そういう意味で「ライスバレー構想」や「バイオマスプラスチック」ってものすごい夢のある話でして、将来の世界の姿、社会の姿を大きく変える可能性を秘めている。これを日本のブランドである米というものでやっていくっていう発想は本当に画期的だなと思いましたので、ぜひ国際的な発信をしていかれることに期待しています。
まとめ
一つは、世の中のビジネスにおける競争ルールは社会価値、つまりSDGsと同じ方向に向かっているという事実を受け止め、その中での成長や生き残りの戦略を考えるべきだということです。お金儲けの戦略だけを考え続けてきたマイケル・ポーター教授みたいな人たちが、今までの戦い方じゃダメですよって言っているわけなんですね。先ほど出てきたCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー=共有価値創造)というのは、「私が説明してきた戦略というのは持続不可能な今までの社会における戦略だった。これから先は、持続可能な社会におけるマーケットを考えなくてはいけない。その中では品質とコストだけで競争するわけではなく、社会価値で選ばれる時代が来る」と言っているようなものです。企業は顧客に対する品質とコストだけで提供価値を追求しているだけでは十分でなく、勝ち続けるためにはそこに社会にとってどうかという社会価値を乗せなきゃいけないということです。
例えば似たような商品が二つあってですね、これは100円です、とても品質がいいんです。こっちはちょっとだけ高いですが、その代わりに作られた過程において、Co2はほとんど排出していない、リサイクルされるのでゴミも出ませんし、エネルギーも使わないんですとなった時に、品質は低くても高い方が選ばれるのが当たり前という時代が予想されているわけです。
確実にそちらの方向に世界全体の規制も法律もルールも、かつ民間企業も株主の行動も、あるいは顧客のマインドも変わりはじめていますので、そういった中でどうやって勝っていくのかということを、ぜひ考えていただけると良いのではないかと思います。
また先ほども申し上げた通り、実はそこでの勝利の秘訣というか、ものすごく強いものは新潟や、日本の地方がもともと持っているわけですね。ですから世界を振り向かせるような発信をきちんとしていくことも鍵だということです。
もう一点は、「ミッション(使命感)」や「パッション(熱意)」というものです。時々、地方は弱くて中央は強いみたいな前提で話をする人がいるんですけど、私全くそう思わないです。
逆に、地方や地域の方が中央や大企業などよりも、よっぽど根性が入っている。気合が入っていて、年季の入った信念を持っていて、かつ熱意があると思っています。
このローカルの持つ力は新しいことを始めるとか、何かを壊していく時にはものすごい大きな力になります。少し極端な例かもしれませんが、この間、ノーベル平和賞を取ったグラミン銀行のムハマド・ユヌス総裁による東京におけるセミナー開催の協力をしました。企業を中心に1,500人ぐらい参加者があり、やはりここでも社会課題への関心の高さを感じました。
グラミン銀行は、貧困の女性に起業させることで貧困から脱出させるという誰も考えたことのないアイデアを事業として実行し、成功しました。貧しくても職がなく、何の能力もないから雇ってもらえない人に起業してもらったんです。小さな小売店とか、あるいはタクシードライバーとかですね。そんな人たちにお金を貸して、起業させても絶対返ってくるわけがない。世界銀行も国連も JICA もみんなそう思っていたと思うんですが、なんと蓋を開けたら返済率が98%でした。
日々、貧困の中で家族と生きるか死ぬかで戦っているような人たちや、地元で代々受け継がれてきた農業や地場産業などを支えている人たちというのは、根性があるというか、生き抜く力非常に強いんですね。人生経験の太さやその地域に対するパッションも全然違います。大企業だとか国連が想像で考えているような、ひょろひょろのものではありません。世界の慣行軌道を変えていくとか、新しい構想を実現していくといった動きの中では、本当は一番必要なエネルギーであって、一番強い強みを地方は持っている。新潟というのは世界から見てそんな場所なのではないかと思います。ぜひ中央とか世界とかいうものに負けずに、SDGsの領域で新潟が大きく踏み出して行くということが、最終的には世界のためになると思ってやっていただくのがいいのではないかと思いました。