1.SDGsはイノベーションに不可欠な”新結合”

昨今の変化の激しい市場環境の中で、新規事業やイノベーションを創出するには、テクノロジーの活用や新機軸のビジネスモデルが重要とされています。しかし、技術開発やビジネスモデルの工夫への投資を増やすだけで、将来の自社の成長と生き残りの根幹となるイノベーションを興せる例は稀です。

イノベーションという言葉の生みの親である経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションは「新結合」であると説いています。これまでの延長線上で技術開発やビジネスモデルの研究を続けるのではなく、これまでの延長線上にはない新たな勝ち筋を見出し、自社の重心を移していくことを示唆しています。そのためのきっかけは内から自然発生的に出てくるよりも、外との新しい結びつきが必要であり、それを新結合と呼んでいます。

これまでの企業の常識にはないSDGsとの出会いは、まさにこのイノベーションに必要な新結合のきっかけを産むものといえます。これまで経済価値(収益)の追求のみを企業の戦略と考えてきた多くの企業にとって、社会価値を産み出すことが将来的な収益や競争力に繋がっていくという発想を持ち、両者を結びつけた共通価値を産み出すという観点で、自社の経営や事業を見直す中で、様々な新結合が産まれてきます。

2.SDGsは自社の目的(パーパス)を磨く砥石

とはいえ、多くの企業、特に大企業においては、既に自社のビジネスを拡大するためにありとあらゆる施策を行ってきており、そのうちの何がイノベーションを興すための新結合なのかは容易には分かりません。

新結合を見極めるには、短期的に今の自社の状態や活動から次に何をするかを考えるいつもの発想ではなく、長期的に見て自社のありたい姿、存在意義、目的(パーパス)は何かを考え、そこから逆算して次にすべきことを考えるというバック・キャスティングの発想が必要です。SDGsの示す社会課題や将来訪れる持続可能な社会のビジョンは、そうした自社の目指す長期的な方向性を再度見直し、磨き上げるための砥石となります。

例えば、日本政府と経団連は、全世界的に進む急速な技術革新に対する日本の社会と企業の戦略を検討する際、技術革新とはあくまで手段であり、「何のために技術を使うのか」という目的が重要であるという認識を持っていました。そこで、将来ビジョンにSDGsを取り入れ、Society 5.0という「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」という構想を示しました。

3.SDGsは新しい需要を見つけるためのコンパス

SDGsやサステナビリティの潮流はグローバル市場の競争ルールや消費者、投資家、従業員等のステークホルダーの意識に大きな変革をもたらしており、その結果として新たなビジネスチャンスがたくさん産まれてきています。

世界のリーダーたちが毎年集結する世界経済会議の2018年の年次会議、ダボス会議では、SDGsがグローバルの市場に生み出す付加的な経済価値は、食料と農業、都市、エネルギーと材料、健康と福祉という4つの経済システムにおける60の市場だけで、1,300兆円ドルを超えると試算されました。

これらはSDGsが生み出す需要の一端でしかありません。SDGsに取り組む中で、こうした大きな需要の変化を一早く取り込み、自社のビジネスと繋げていく機会を増やしていくことができます。