Day16で解説したとおり、SDGsが目指すビジネスの姿とは、本業を通して経済価値と社会価値の両方を産み出す事業です。それにより、企業による社会課題解決を持続可能かつ拡大可能にすることができます。これは、DAY11及び企業向け教材・事例集でも紹介した共通価値創造(CSV: Creating Shared Value)の戦略とほぼ同義のものです。しかし、定義が分かっても、具体的な方法が分からなければ、企業は取り組めません。SDGsビジネスを産み出すためには、何をしたら良いのでしょうか。CSVの理論の中では、商品、バリューチェーン、クラスターという3つの方法が紹介されています。
1.製品・サービス
企業が共通価値を産み出そうとする際に真っ先に思いつく方法は、自社の製品やサービスで社会や環境に対する価値を与えることです。まずは社会課題の解決策となるような新しい製品・サービスを開発することが想定されます。それ以外に、既存の製品・サービスの活用、応用、転用、組み合わせ、機能・ラインナップの追加・改良なども考えられます。
例えば、民泊ビジネスで有名なAirbnbは、南極調査隊やバハマ諸島の観光ボランティアなど、SDGs課題の現場体験や持続可能な社会に向けた地域事業に貢献するサバティカルというツアーを催行しています。旅行というサービスを通して娯楽と持続可能な社会の実現に資する原体験とを同時に提供し、社会課題への共感を多様な人々に広げ、旅行から戻った後の生活や仕事の中での解決努力を促しています。
2.バリューチェーン
次に、製品・サービスそのものは変えずに、それらを生産し、販売するための自社と取引先の一連の活動を通して社会や環境への価値を産み出すことができます。これは生産プロセスにおける自社とステークホルダーの購買、製造、物流、販売、アフターサービス等の主活動、及びそれらを支える全般管理・インフラ、人事・労務管理、技術活動、調達活動などが考えられます。
バリューチェーンを通じた社会価値の創出で最も多く行われている施策は、生産工程におけるCO2排出の削減です。例えば、コニカミノルタは自社製品全体におけるCO2排出量の8割削減を目指すとともに、社外でのCO2削減量が自社の排出量を上回る「カーボンマイナス」を掲げ、自社の省エネ手法をデータベース化し、 取引先と共有しています。バリューチェーン全体でのCO2削減をリードすることにより、自社のコストである燃料費と、地球や社会にとってのコストであるCO2排出量の両方を削減しています。
3.クラスター
最後に、クラスターを通じた方法がああります。クラスターとは、特定分野の企業、サプライヤー、サービス・プロバイダー、ロジスティクス、学術団体、業界団体、規格団体等が地理的に集積した地域経済圏のことです。日本で言えば、自動車産業クラスターとしての豊田市、学術クラスターとしてのつくば市、環境産業クラスターとしての横浜市などがこれにあたります。クラスターの形成と活動を通して社会価値を産み出すことができます。
例えば、伊藤園は、茶畑での茶葉生産から店頭での茶殻販売までを一気通貫で行っており、農家、茶業の研究・普及機関、農業資材関連企業、大学、農協等との連携により、茶産地の産業クラスター化を推進しています。高品質で安定的な原料調達という自社にとっての価値を確保することと、農家の安定経営、地域の雇用創出、CO2削減や生物多様性の保全などの地域、社会、環境への価値を創出することを一体の活動として行っています。