企業経営改革の推進

また、「第二次中間整理」では価値創造経営の実行に向けて、政府として資本市場改革と企業経営改革の推進を促すとしています。このうち後者の企業経営改革では、①SX戦略の構築、②経営陣の戦略執行機能の強化、③経営陣を規律づけるガバナンスの強化、の3つを掲げています。そして、この①SX戦略の構築をする上で鍵となるのが、サス関連データの積極的な活用です。つまりサス関連データを活用することで、具体的な経営状況の把握や管理が可能となりSX戦略の構築と戦略の高度化が実現できるという訳です。

また、②執行機能の強化とは、「中長期視点の戦略を着実に実行するマネジメント」のことであり、③ガバナンスの強化は「グローバル水準の長期インセンティブ報酬、優れたCEOを選ぶためのサクセッションプラン作成、過半数の独立社外・多様性のある取締役会、長期経営方針についてCEOと社外取締役の徹底した対話」であるとされています。

これらが対応の方向性として挙がっているということは、裏返すと現状多くの上場企業の経営者はそれができていない、ということを意味しています。では、果たして日本の上場企業の経営者は本当にそれができていないのでしょうか。

日本の国際競争力ランキング

経済産業政策新機軸部会の前提には、スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表する国際競争力ランキングの結果があります。昨年6月に同部会が公表した「中間整理」ではかつて同ランキング1位であった日本が2021年に31位にまで下落していることを問題視しています。

国際競争力ランキングは、毎年IMDが実施しているもので、4つの因子「インフラ」「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「経営の効率性」により総合順位を決めています。この中で特に問題なのが、「経営の効率性」です。その内訳として、「経営慣行」が意識調査という形で測られています。「経営慣行」として、アジャイルな企業経営を行っているか、市場環境の変化に敏感か、機会・脅威に迅速に対応できているか、経営者が信頼されているか、取締役会は経営を効果的に監督しているか、経営者の起業家精神は十分か、ということが問われていますが、2021年にはこの「経営慣行」が62位でした。

更に、今年の国際競争力ランキングでは日本は64か国中、総合順位が過去最低の35位となり、「経営慣行」のなかの小項目である「企業の機敏性」「起業家精神」「国際的な経験」「ビッグデータ、アナリティクスの活用」については64位の最下位となっています。

これは「経営者意識調査」に基づくことから、経営者による回答の結果が反映されているため、日本の経営者の謙虚さが表れているとも捉えられないことはありませんが、64か国中最下位というのはさすがに謙虚過ぎますし、悪く言えば悲観的であり、自信のなさやあきらめが表れているとも言えます。

前述の「第二次中間整理」では企業の経営者に向けてアニマルスピリッツという言葉を使い行動を喚起しています。

「我が国の付加価値の過半を占める大企業には、自らのアニマルスピリッツに再び火をつけて、賃上げ等に対応する原資を確保し続けるべく、自社株買い等の一過性の対応のみにとどまらず、持続的に価値を創造する経営に取り組み、日本全体で早急に結果につなげることが求められている。」

経済産業政策新機軸部会「第2次中間整理」p.49

経営者へのメッセージ

改めて「サステナビリティ関連データの効率的な収集及び戦略的活用に関する報告書」が経営者に向けて伝えたかったメッセージは何だったのでしょう?同報告書は「第二次中間整理」を受けて経営者が実行し易い懇切丁寧なマニュアルと言えます。

その文脈で考えると、同報告書の経営者へのメッセージとは、上場企業の経営者に対して、「政府として方針や丁寧なガイダンス作成を通じて外部環境は整えました。あとは経営者の皆さんの行動に懸かっています。」という叱咤激励ではないでしょうか。

なお、同報告書では主要な想定利用者として、経営者以外に経営企画部門をはじめ企業内の各担当者を、また、その他想定利用者としてコンサルティング会社、システムベンダー、投資かなどが挙げられています。

本ワーキンググループの委員である株式会社野村総合研究所の三井千絵上級研究員は、「この報告書は、サステナビリティに関するデータを経営戦略に生かすべきという経営者へのメッセージと共に、サステナビリティ関連の業務を担う担当者や、コンサルティング会社の方が顧客とディスカッションをする時にも役立つのではないか」と言っています。

経営者に社内・社外からは言いにくいこともあるかもしれませんが、この報告書をうまく活用して経営者を巻き込み、サス関連データの開示と企業価値の向上に更に推進していってはどうでしょう。

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