サス関連データの活用における3つのプロセス

サス関連データの活用には3つのプロセスがあると言います。すなわち、必要なサス関連データの①特定、②収集、③活用です。また、この中で特に問題が多いのが収集であるとしており、主な課題として5つ挙げています。

サス関連データの活用における主な課題
①  連結子会社からのデータ収集における課題
  企業グループ内の連携不足、収集体制の未整備等
②  バリューチェーンに関するデータ収集における課題
  データ提供者に対する支配力の欠如、データの質のばらつき
③  収集ツール(ITシステム等)の未整備
  エクセル中心の非効率な収集、ITシステムの未整備
④  業務プロセスの未確立
  マニュアルが未整備
⑤  人材不足
  マンパワー、専門人材不足、育成体制の未整備

課題の原因と対応の方向性

そうした課題の主要な原因として同報告書はサス関連データの経営戦略上の位置づけが曖昧でそもそも何がサス関連データかの範囲が定まっていないこととしています。このため、経営陣がリーダーシップを発揮し、①収集体制の確立と、②収集のためのオペレーションの確立、すなわち、データガバナンスの導入を早急・着実に実施するよう呼び掛けています。

1. 収集体制の確立
(ア)   業務分掌の明確化と統括部所等の設置
(イ)   企業グループ内の連携強化
(ウ)   バリューチェーンに関するデータ収集への対応
(エ)   十分かつ適切な内部統制等の整備・運用
(オ)   サステナビリティ関連データの収集に係る人材の確保・育成
2. 収集のためのオペレーションの確立
(ア)   業務プロセスの段階的・計画的な構築
(イ)   ITシステムの段階的導入
(ウ)   網羅的かつ統一的な社内マニュアルの策定・運用

そして、報告書の最後には活用事例としてAGC、住友化学、不二製油などの優良事例を示し、経営陣の行動を促しています。

「企業価値向上の後押し」とは?

では、報告書の目的として掲げられている企業価値向上の後押しとはどういう意味でしょう?

同報告書は、企業価値向上につながるプロセスとして経済産業省の産業構造審議会における経済産業政策新機軸部会が5月に経済産業政策の新機軸として発表した「第二次中間整理」の認識を前提としています。すなわち、持続的な企業価値向上には、企業が中長期の視点をもってSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を軸とした価値創造経営を実行していくことが重要である、という認識です。

「第二次中間整理」によると価値創造経営とは、「高い資本効率・収益性(高いROE:株主資本利益率)を確保しつつ、社会課題の解決を通じた成長戦略を策定することで成長期待を集め(高いPER:株価収益率)、持続的に企業価値を向上させる経営(結果として高いPBR:株価純資産倍率)」と定義されています。そして、中期目標としてPBRが1倍以上のTOPIX500企業の割合を現状の約4割から2030年までに6~8割にすることを掲げています。

PBR、ROE、PERはPBR=ROE×PERという関係が成っていることから、経営の効率性を高めることでROEを上げ、(日本のTOPIX500平均8.9%に対して米国21.1%、欧州14%)、SX戦略による企業の成長期待を高めることでPERを上げ、PBRが1以上となることが企業価値向上の一つの目安になると言えます。

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