概要

SDGs CompassはSDGs発足後に最も早く発行され、現在も多くの企業に参照されている企業がSDGsに取り組むためのガイダンスです。特に上場企業に向けて書かれており、サステナビリティ報告やESG投資のための外部レポーティングとの関係性を整理した上でSDGsへの取り組みを考えるための一つの有力な方法論と数多くの有用な情報を示しています。SDGsの実施や評価を直接所管する国連事務局や国連機関が発行した公式な基準やガイドラインではありませんが、国連関係機関のUNGCが作成に関わっていることもあり、信頼性のあるレポートとして広く認知されています。

SDGs Compassでは、企業にとってのSDGsの導入ステップについて、「1.SDGsを理解する」から始まり、「2.優先課題を決定する」、「3.目標を設定する」、「4.経営へ統合する」、「5.報告とコミュニケーションを行う」という5つのステップで論理的に分かり易く解説しています。また、ステップ1は最初だけで、ステップ2~5はサイクルとして循環していくという想定になっています。

発行元:GRI、国連グローバル・コンパクト、WBCSD、PwC(日本語訳:IGES)

特徴と考察

企業のSDGへの取り組みを一度対応して終わりのプロセスではなく、企業価値を継続的に高め続けるためのサイクルとして捉えている点が特徴的です。外部評価を高めるだけの取り組みではなく、企業の本質的な存在意義を高めるための取り組みを促すものとなっています。外部に評価されることが大事ではなく、そこから改善を行い、次のサイクルを始め、目標設定や実行としての共通価値創造に繋げていくことを明示的に推奨しています。

一方で、全般的にサステナビリティ報告の方法論をベースにしているため、SDGsに関する目標設定はサステナビリティ報告の中での重点課題(マテリアリティ)を補足または洗練するための位置づけの域を出ていません。前者が対象とする経営戦略としてのターゲットとしては活用できるものの、SDGs実践者に本来求められている企業の目的(パーパス)や経営理念への導入という観点からすると、スケールダウンしている感が否めません。

また、目標設定の方法がサステナビリティ報告と同様にインサイドアウト(自社の現状起点)・フォアキャスティング(現在起点)となっており、持続可能な世界を実現するための世界と人類の統合行動としてSDGsが持つインサイドアウト(世界の構想・課題起点)・フォアキャスティング(未来起点)の視点は持ちにくい手順になってしまっているという点に課題が残ります。

加えて、理念としては企業の存在価値の向上を目指すものである一方、具体的な手順は全般的にSDGsの外部報告によって投資家などの外部に評価されることを目指す形になっています。この方法論によって企業側の本業における成長力や競争力などへの効果がどう出せるのかは手順の中では詳しく解説されておらず、説得力のある事例も示されていません。結局はCSRやコンプライアンスなどと同様に、企業にとっては「とりあえず外向けにやっておけば良いこと」と認識されてしまうリスクを孕んでいるといえます。

SDGs Compassは緻密に練られた方法論と企業にとって役立つ多数の情報をとりまとめた有用なレポートです。一方で、上記のような課題があることも念頭に入れ、SDGsへの取り組みが単なるサステナビリティ報告の後付けにならず、自社にイノベーションを興すための取り組みとなるよう独自の実践法を検討する材料として活用していくことが必要です。

追加資料

SDGs Compassが発行された後、作成元であるUN Global CompactとGRIは、「SDGsに関するビジネス・レポーティング(BUSINESS REPORTING ON THE SDGS)」と題した追加のガイダンスを3冊発行しています。SDGs Compassを補足する位置づけですが、実践者にとって必須の情報が具体的に説明されています。実際にSDGs Compassに基づくSDGsの導入・実践を行おうとする企業にとっては必読の3冊といえます。

1.ゴールとターゲットの分析(2017年)
Analysis of the Goals and Targets

SDGs Compassのステップ2「優先課題を決定する」の中の「2.1 バリューチェーンをマッピングし影響領域を特定する」、「2.3 指標を選択し、データを収集する」というサブステップに関する具体的なガイダンスです。 報告のための確立された開示事項のリスト、ターゲットごとに取り得るアクションの事例リスト、 開示事項がまだ確立されていない可能性のあるギャップのリストを示しています。

URL: https://www.ungcjn.org/sdgs/files/elements_file_target.pdf

2.SDGsの企業レポーティングへの統合:実践ガイド(2018年)
Integrating the SDGs into Corporate Reporting: A Practical Guide

SDGコンパスに基づく外部報告のためのレポート作成及びそれに基づく具体的なアクションへの体系的アプローチを解説しています。GRIスタンダードと国連グローバル・コンパクトの10原則との関係を整理した上で、SDGs Compassに示された導入ステップのうち1)優先的に取り組むSDGsターゲットの決定、2)測定と分析、3)報告、統合、改革の実行に関する詳細なガイダンスを提供しています。

URL: https://www.ungcjn.org/sdgs/files/elements_file_guid.pdf

3.考察:SDGsのビジネス・レポーティングにおける投資家ニーズへの対応(2018年)
In Focus: Addressing Investor Needs in Business Reporting on the SDGs

上記2.を更に補足するものです。企業がSDGsに関する外部報告のためのレポートを作成する際に開示される情報と、投資家側が実際にSDGsに関して知りたいと思っている企業の情報とをより良く合致させるためのガイダンスとなっています。企業にとってはSDGsに取り組む前提として、投資家側からどう見られ、評価されるのかという視点や仕組みを知る上で有用な情報が多数掲載されています。

URL: https://www.ungcjn.org/sdgs/files/elements_file_focus.pdf