概要

 2021年8月、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は 第6次評価報告書(AR6) 第1作業部会(WG1)報告書を発表し、人間の活動が温暖化させてきたことには疑う余地がないと断定すると共に、今後、熱波、干ばつ、洪水などの異常気象がますます頻繁に起きるだろうとしました。グテレス国連事務総長はこれに対して「人類へのコード・レッド(非常事態発生のサイン)」と述べ、強い危機感を示すなど改めて気候変動とその対策の必要性に注目が集まりました。

 また、続く2021年11月に英国で開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)においては、各国の掲げる目標や取り組みのすべてが効果を上げても、2100年までに産業革命前と比較した気温上昇が1.5 ℃ を抑えるのは難しく、約1.8℃になる可能性があるとして、石炭火力発電の段階的削減や気温上昇を1.5 ℃ 以内に抑えるため、各国が「決意を持って取り組む」ことや、2022年末までに各国の温室効果ガスの排出目標を再検討することなどが合意されました。

 こうした流れを受け、2022年2月に第6次評価報告書(AR6)第2作業部会(WG2)報告書が公表されました。本報告書では、これまでの報告書の流れに沿っており大きな発見はなかったものの、蓄積された科学的証拠から人間の活動による悪影響や損害は、これまでに想定されていたよりもはるかに早く、破壊的で、広範囲に見られており、気候変動が人間のウェルビーイングと地球の健康にとって脅威であることは疑う余地がないと断定しています。
 
そして、社会・エコシステムの抜本的に再構築・強化を通じた気候変動への「適応」や、温室効果ガスの削減を通じた気候変動の「緩和」において、地球全体における協調した対策を遅らせてはならない、なぜなら、人類をはじめとして様々な種にとって住みやすく、持続可能な将来を実現するための選択肢は平均気温の上昇に伴い急速に狭まっており、今行動を起こさなければこの流れを変えるチャンスを永久に逃すことになる、と警鐘を鳴らしています。

その中で、企業は、革新的な商品やサービスの供給者として、「気候にレジリエントな開発」を実現する上で、革新的な技術、強靭なインフラ、情報システムの開発など、気候変動への「適応」に大きく貢献できる特別な能力を有する存在として強い期待が寄せられています。気候変動への対策を行うための国際的な動きが一段と早さを増している中、企業はこうした期待に応えると共に、それぞれの活動において気候変動対策のアクションを起こし、走りながら学びのサイクルをより多く回すことで、変化の激しい状況に対応していくことが求められていると言えます。

 以下では、IPCCとは何かという基本的なことを確認しつつ、ビジネスにとっての意味合いという観点から本報告書の概要をご紹介します。

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