社会問題を革新的な方法で解決するソーシャルイノベーションや、事業を通じて社会課題を解決するソーシャルビジネスは、SDGsを実現し、慣行軌道上にある持続不可能な未来を持続可能なものに変える方法として期待されています。

新規事業の成功率を上げるには?

既に多くの企業が新規事業などの形でソーシャルビジネスに取り組み、経済価値と社会価値の両立を実現する共通価値の創造に向けて事業を行っています。しかし、新規事業の成功率は一般的に数パーセントと非常に低いと言われています。つまり、優れたアイディアやビジネスモデルも、大半が失敗に終わることを意味します。他方で、そこで終わるものもあれば、必要な改善・変革を通して成功に至るものもあります。

ではどうしたらその失敗の道を抜け、成功に至ることができるのでしょうか?一つの方法はGoogleが実践している「Fail fast(さっさと失敗する)」です。

避けられない失敗を避けようとするのではなく、むしろできるだけ早く失敗をして、そこから失敗の原因を分析・学習し改善を図るということです。

良い失敗を成功するまで繰り返す

どんな失敗からでも学ぶことはできますが、ポイントは仮説や検証すべき事柄を明らかにして小さく実験をすることで得られる「良い失敗」を成功するまで繰り返すということです。

そして、かのエジソンが言ったように思うようにいかない場合にそれを失敗ではなく、うまくいかない方法を発見したと捉えることです。エジソンは、「我々の最大の弱点は諦めることにある」という言葉も残しています。

つまり、うまくいかない方法を次々とつぶし、人間の弱点であるあきらめを克服し成功するまで忍耐強く取り組む、というシンプルですが本質を突いた方法です。しかし、多くの方が「言うは易く行うは難し」と感じているのではないでしょうか。

どうすれば「成功するまであきらめない」を実践できるか?

実際、多くの企業では挑戦することを奨励していますが、失敗を恐れ、なかなか挑戦しないという声も聞きます。日本は文化的に不確実性回避の度合いが非常に強く、新しいことに挑戦するという不確実性の高いことを忌避する傾向があると言われています。つまり、挑戦「だけ」を唱えても、失敗したときの対応を考えておかないと掛け声だけで終わってしまい、行動に反映されないということになりがちです。

経営陣による働きかけと対話

失敗したときの対応を変えていくためには、失敗を歓迎する経営陣の考え方を広めることや、組織文化を変えること、評価制度などを変えていくことが必要です。例えば、AGCや住友化学では経営陣自らが先頭に立って失敗へのアレルギー反応の改善を図っています。

両利きの経営で成果を上げていることで有名なAGCの平井社長は「失敗を恐れたり、失敗した者を叩いたりする組織では、挑戦はできません」と言い、失敗から学ぶことの意義を経営陣が繰り返し対話を通じて説き続けています。

チャレンジや失敗から学ぶことは良いことであると経営陣が事業部門や従業員との対話を通じて説き続けています。挑戦による失敗と成功の積み重ねによって磨き込まれたマネジメントシステムと組織文化は、今やAGCグループの長期持続的な企業価値向上に不可欠な無形資産となっています。

AGC統合レポート2022より

また、住友化学の岩田社長は2019年の社長就任当初、起業家精神に富んだ企業文化を醸成することを目標に掲げていましたが、当時の組織風土について次のように語っています。

住友化学は決して失敗を咎める文化ではありませんが、非常に真面目な社風ゆえに、成功した前例の踏襲も良しとする風土もあり、挑戦しないことによる機会損失への意識がやや欠けていると感じていました。

住友化学レポート2022より

そこで岩田社長はそれを変えるため、経営として事業の方向性や失敗よりも大きな目的感を示すことで閉塞感を打破する取組を行いました。

『何をしていいか分からない』、あるいは『行動しても効果は限定的だ』というような閉塞感がもしあるならば、経営として将来の事業の方向性を明確に示すことで、その閉塞感を打ち破りたいと考えました。

住友化学レポート2022より

例えば、カーボンニュートラルに向けた技術開発と社会実装や、農薬事業における環境負荷低減と食糧増産の両立を、挑戦の先にある目指す方向性と示したのです。その結果、「各事業の将来像をクリアにし、そこに向かって日々の具体的な判断・行動を積み重ねることで、徐々に意識も変わってきた」と言います。

挑戦と失敗はセットです。挑戦だけを推奨してもうまくいきません。挑戦する際には必ず発生する失敗を避けるのではなく、できるだけ早く失敗して学びを得られるよう経営陣が自ら働きかけたり、組織文化や評価制度を整えることで、失敗に対する恐れを軽減させることが重要です。気合と根性で恐れを押し込めて挑戦をすることを求めるのではなく、成長したいという人間が本来持っている動機から自然と挑戦したくなる環境を整えることで、挑戦を引き出してみてはどうでしょうか。