SDGsは、持続可能な社会を創るための人類の挑戦です。しかし、様々な社会課題が山積する中、何から始めたらよいのか分からない、自分達にできることはほとんどないのではないかと思っていませんか?

富山県南砺市はそうした状況から発想の転換を通じて従来見過ごされてきたものから新たな資源を獲得し、持続可能な社会を作る取り組みを進めています。

齢化率約40%で過疎化も進む南砺市

南砺市は、富山県の南西部に位置し、平成16年に8つの町村の合併により誕生しました。同市の人口は約4.8万人。自然減や市外への流出で2004年から約18%減少し、2060年には現在の人口の4割程度にまで減少すると言われています。高齢化も進んでおり、高齢化率は約40%と全国平均よりも10%も高くなっています。

「使えない木材」を資源に転換

南砺市の面積の80%は森林です。伐採する木のうち建材として高値で取引できるのは2割で、残りの8割は山の斜面が急峻で木の根っこに近いところが曲がってしまうなどの低質材です。低質材は低価で買い取られるため、採算が取れず、林業の収益につながりませんでした。さらに、高齢化で森林の伐採・間伐をする人材不足もあり、森林の利用は進みませんでした。

利用されないということは、適正な管理がされないということになります。その結果、森林の高齢化が進み二酸化炭素の吸収能力が落ち、枝が茂り、日光が届きにくくなります。すると、根が張りづらくなるため、雨風に耐える力が弱くなり、土砂災害などの危険性が増します。森林をめぐるこうした問題の対策に、市は頭を悩ませていました。

しかし、南砺市はそこで諦めるのではなく、2013年に地域の自立と循環の実現を目指す「南砺市エコビレッジ構想」を策定しました。この構想の下、森林を資源として有効活用する「南砺市再生可能エネルギー促進事業」を進め、林業を地域の生業として支えることで、災害予防や資金の市外流出を防ぐ取り組みを始めました。

低質材を木質ペレットとして資源化

同事業では、低質材を木質ペレットに加工し、ボイラーやストーブの燃料として活用することで新たな価値を生み出しました。それまで南砺市の温水プールの加温、病院の給湯、空調などの熱源には化石燃料が用いられ、購入費の年間約7千万円は市外へ流出していました。

しかし、熱源をバイオマスボイラーに変更し、木質ペレットを市内で製造することで、燃料購入費は市内に留まり、同時に木質ペレット工場での雇用創出等により、約1億円の地域内経済効果を生みだしました。使えなかった木材が地域に益を生み出す資源となったことで、森林の利用が進み、より適正な管理につながり、土砂災害の防止、約2,000トンのCO2排出削減、焼却灰再利用による農業用肥料の産出、エコツアーの催行などの経済・社会効果も生み出しました。

南砺市総合政策部エコビレッジ推進課の亀田秀一課長によると「それまで多くの人が、山は固定資産税を払うだけで価値がないと思っていました。しかし、本事業によりエネルギーと経済的な益をもたらすものと、山の価値を見直されるようになりました」といいます。

南砺市のロゴ

地域の精神風土を活用した起業支援

他にも、古くから南砺地域で育まれてきた「おかげさま」、「お互いさま」といった「結(ゆい)」と呼ばれる相互扶助の仕組みや「利他」、「もったいない」といった感謝の心を大切にする「土徳(どとく)」と呼ばれる精神風土に改めて焦点を当て、現在の課題解決へ活かしています。

例えば、2019年に設立した「公益財団法人 南砺幸せ未来基金」は、市民や企業からの寄付で運営する中間支援組織です。同基金では、集まった寄付金を財源として、地元の人々がお互いに支えあい、地域の自立を進め、活力を生み出す活動をされる団体へ資金面での支援を行っています。

そして、もう一つの中間支援組織である「一般社団法人なんと未来支援センター」も連携し、起業ノウハウやネットワークづくりなど支援しています。これらの取り組みが評価され、2019年には国から「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」の選定につながり、取組を進める後押しとなりました。

発想の転換による新たな価値創造

南砺市では、日本の各地にみられる少子高齢化や資源不足、過疎化など多くの社会課題を抱えながらも、発想を転換することで、従来の価値観や地域の資源を生かして経済価値と社会価値を両立する新たな価値を創造してきたのです。こうした発想の転換こそ、SDGsを実現し、慣行軌道上にはない持続可能な社会を創造していくために必要と言えます。

あなたの地域・会社でも眠っている資源を活用できないか、伝統や風習にヒントが隠されていないか、新たな発想で探してみませんか?