世界では約30億人がインターネットにアクセスできず、その9割以上は発展途上国におり、女性や高齢者は特にその影響を受けていると言われています。「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念に照らすとデジタル格差は解消すべき大きな問題です。

主にヨーロッパとアフリカで通信事業をしているイギリスのVodafoneは「より良い未来のために、私たちはつながる(We connect for a better future)」というパーパスの下、インクルージョン、地球、デジタル社会(Inclusion for All, Planet, Digital Society)という3つのテーマで人や情報をつないでいます。

デジタル格差を解消するための5つの領域

Vodafoneは、デジタル格差を解消する上で重要な要素として、①ネットワークのカバレッジ、②デバイスへのアクセス、③購入可能な価格、④デジタルスキル、そして⑤製品およびサービス、という5つの領域で改善に取り組んでいます。

1.カバレッジ

カバレッジという点では、サハラ以南のアフリカ6カ国における4G人口カバー率を54%から約85%に引き上げるため、5年間で1億9000万ドルを拠出することをコミットして基地局の設置等に取り組んでいます。また、アクセス向上については、国連の持続可能な開発のためのブロードバンド委員会(Broadband Commission for Sustainable Development)の委員でもあるCEOのニック・リードは、同委員会が掲げる2030年までに30億人がインターネットにアクセスできるようにするという目標にリーダーシップを発揮して取り組んでいます。

2.アクセスの向上

アクセス向上については、インターネットアクセスにおけるジェンダー格差の大きいトルコ・アフリカ地域の女性のアクセス強化を推進しています。2016年に約4,500万人だった同地域の女性ユーザーを、2025年までに新たに2,160万人増やすという目標を立てていましたが、2021年には4年も前倒しで目標を達成しました。現在は2025年までに更に2,000万人の女性へのアクセスを増やすことを新たな目標として取り組んでいます。Vodafoneによると同社の女性ユーザーは、ネットプロモータースコアが男性より4pp高いため、女性ユーザーが増えることはビジネス上も有意義な取り組みとなっています。

3.購入可能な価格

デバイスの価格については、サハラ以南の国々ではデジタル格差の大きな原因の一つとなっています。このため、VodafoneはGoogleと組んでLipa Mdogo Mdogo(少しずつ支払うという意味)という1日20ケニアシリング(約20円)の分割払いでスマートフォンを購入できるスキームを立ち上げました。このスキームにより、これまでスマートフォンを購入できなかった約60万人が新たにスマホを通じてネットワークへのアクセスを得ました。

4.デジタルスキル

デジタルスキルについては、教育において、Connected Educationというプログラムを立ち上げヨーロッパとアフリカの14ヵ国で5,000校、170万人の学生・教師にオンラインの教育コンテンツをデータ料無料で提供しています。また、デジタル格差の影響を受けやすい高齢者に対して、アイルランドでは高齢者向けにインターネットやソーシャルメディアのトレーニングを無償で提供するHi Digitalというプログラムを2021年より提供しており、既に2万人が受講しています。

5.サービス

サービスにおいては、南アフリカやコンゴ民主共和国で妊産婦や子育てをする人に向けて、「Mum & Baby」というアプリで出産や育児に関する情報を無料で提供しています。

アプリはVodafoneユーザーにはアプリ通信時の通信料や利用料を無料で提供しており、自分の年齢や妊娠状況、子どもの年齢などを登録すると、妊産婦や子どもの年齢に応じた情報が週3回ほどテキストメッセージで配信されます。配信される情報は、授乳や食事、健康管理、予防接種のタイミング、近くのクリニックなどに関することであり、ホームページでも好きな時に情報を見ることもできるようになっています。

こうした情報は、南アフリカのように人口千人あたりの看護師の数が1.2人(イギリスと日本の人口千人あたりの看護師の数はそれぞれ8人と10人)で、診療所などが近くにない地域においては生死を分けることになります。

南アフリカでは210万人以上の登録ユーザーがおり、子育てをする人が子どもの健康増進のために積極的に行動できるよう支援しています。その結果、このアプリの情報により約65万人が予防接種を受けることができました。

サービスの別の例として、現在、世界で銀行口座を持っていない人は約21億人にいると言われていますが、VodafoneはSafaricom社を通じてM-Pesaという携帯電話による送金サービスを提供しており、ケニアを中心に5,200万人が同送金サービスを利用しています。

同サービスによりこれまで銀行口座を持てず、物理的に現金を運ぶ以外に送金する手段を持たなかった人々が手軽に遠隔地に住む親族などに送金ができるようになりました。M-Pesaは現在アフリカの代表的なフィンテックサービスと位置付けられており、2021年3月期の売上は約9億ドルと、M-Pesaを運営するSafaricomの売上約25億ドルを牽引しています。

Vodafoneはこのように自社のパーパスに沿って、デジタル格差の解消に向けた社会価値の高い取り組みを行いつつ、2021年3月期はグループ全体で約455億€の売上、約56億€の営業利益、そして2.6%の成長を果たしており、文字通り経済価値と社会価値の両立を実現しているのです。