ここでは、SDGs講演や研修の際に参加者から寄せられたSDGsに対する質問や意見への回答の中から重要なものを掲載します。本ページの末尾にあるコメント欄からも直接質問を受け付けています。


Q1. 企業は利益を上げることで経済を成長させ、雇用を産み出し、税金も払っている。これ以上、製品やサービスで社会価値を産み出すことまで求められるのは違うんじゃないでしょうか?

【回答】

そもそもそのような考え方で企業が活動し、市場競争が行われる形の資本主義の在り方では世界が持続可能でないという現状認識から、1980年代にトリプルボトムライン(企業のパフォーマンスを経済、社会、環境の3つの側面で評価する会計の枠組み)という考え方が広まりました。これは持続可能な世界の実現における企業の責任と役割の議論へと発展し、その後のCSR、ESG、SDGsといった潮流へと繋がってきました。

「企業は人を雇い、お金儲けをし、税金を払っていればよい」という考え方は、政治行政の力を過大評価しているか、企業の社会や環境に対する影響を過小評価しています。世界の現状に関する事実を直視せず、これまで30年以上積み上げられてきた国際的な議論を巻き戻すものです。


Q2. 客先にSDGsを売り込もうとしたところ、上場企業なのに相手が知りませんでした。SDGsの認知度をもっと上げないとビジネスで実際に活用するのは難しいと思うのですが。

【回答】

GPIFなどの調査で出てくる「上場企業の認知度99%以上」といった数字は、社長や経営企画部などへのアンケートですので、一般社員まで浸透していない可能性はあります。しかし、そこで企業として「取り組んでいる」または「知っている」と回答しているということは、組織として経営と事業での何らかの方針や動きがあります。客先の担当者はそれを知らない、つまり、自社の動きをきちんと把握していないという場合がほとんどです。特に経営層では既にSDGsは経団連の企業行動憲章にも入っている「知らないと恥ずかしいこと」ですので、やんわりとそのような状況を伝えて自社内で確認をするよう促すと話が進みやすくなると思います。

なお、既存のお客さんへこれまでと同じ製品やサービスの提案をしているにもかかわらず、SDGsのロゴマークを入れたり、「SDGsで何か一緒にやりませんか?」と持ち掛けることは、典型的なSDGsウォッシュ(見せかけのSDGs)ですので、そのような発想にならないよう注意しましょう。


Q3. 投資ファンドや年金・保険基金など他人のお金を預かって投資している機関投資家は、市場の成長に見合った利益を出すことに集中すべきと思います。ESGを考慮すべきでないと思います。

【回答】

これは投資における受託者責任(他人の資産を預かって投資を行う受託者が投資家に対して負うべき責任)といい、ESG投資に対する最も有名な批判です。

ESGのような非財務価値を考慮することは、投資家への本来のリターンである財務価値に対してマイナスであるという意見です。特に国民や社員の将来の生活の糧として積み立てられる年金の運用期間は、米国のエリサ法に代表されるように法律によって受託者責任が明記されていることがあります。この場合、そのような機関投資家がESG投資を行うことは、見方によっては法律違反ということになります。

これに対するESG側の主な反論は主に2つあります。第一は現状、様々な政府、格付機関、シンクタンク等の調査により、ESG評価の高い企業は長期的な財務パフォーマンスや株式市場での格付けも高い傾向が確認されています。つまり、ESGの非財務パフォーマンスと財務パフォーマンスは相関関係にあるため、前者を重視することが後者を損なう事にはならないとするものです。

第二は、受託者責任の「責任」とは、単なる財務的なリターンという視野の狭い意味なのか、という疑問です。例えば日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のように一国のGDPに匹敵する規模の資産を運用する機関が、社会や環境に無配慮で財務パフォーマンス、すなわち利益だけを追求する行為は、本当に大勢の人々から大規模な資産を預かる社会的な存在として、責任を果たしていると言えるのかという議論です。

加えて、投資家の利益という観点から見ても、SDGsやサステナビリティの潮流によりこれだけ多くの人々や組織が持続可能な世界を実現するための取り組みに共感している中、ESGの要素を無視して利益だけを追求することは、資産を預けている投資家側の大勢の意向に応えているのか(=受託者としての責任を果たしているのか)という反論もあります。


Q4. SDGsやサステナビリティのようなことは、結局企業にとってはイメージアップの手段に過ぎないのではないでしょうか。

【回答】

CSR(企業の社会的責任)などに対する日本企業の取り組みに失望している多くの方が、SDGsに取り組む企業をそのように見ているという側面はあるように思います。

率直に言えば、SDGsをイメージアップの手段に使っている企業もあれば、そうでない企業もあります。しかし、実際にSDGsやサステナビリティに対して真摯に取り組んでいる数多くの企業と一緒に働いてきた経験からは、前者のような企業ばかりではなく、本質的なSDGsやサステナビリティへの取り組みを行っている(少なくとも志向している)後者のような企業は少なくないと感じています。


Q5. 消費者の立場でSDGsにきちんと取り組んでいる企業とそうでない企業はどうやったら見分けられるのでしょうか?

【回答】

本質的な取り組みをしている企業は、SDGsへの取り組みとして挙げられる製品やサービスの例が具体的で説得力があるので、消費者の立場からも割とすぐに見分けることができます。

ウェブサイトや外部向けレポートでよく分からないデータが羅列されており、概念的な言葉やコンセプトが躍っているだけで、具体的に何が変化しているのか分からないような企業は、ESG投資やサステナビリティ報告などで高く評価されていても、あまり信用しない方が良いでしょう。

もっとシンプルに言えば、「我が社はこのようにSDGsに取り組んでいます」という企業や商品の説明を聞いて、直観的に「よくわからない」、「ピンとこない」と感じたら、たいていはきちんと取り組んでいません。説明している側がよく分かっていないのです。


Q6. 持続可能な社会というと現状維持のイメージがあります。SDGsとイノベーションというのが結びつかないのですが。

【回答】

SDGsの「持続可能」という言葉から、現状維持を連想してしまう方もいるようです。これは、現在の世界に対する基本認識が「持続可能」か、「持続不可能」かで異なります。

前者であれば現状維持かもしれませんが、SDGsの基本認識は後者です。持続不可能な世界を持続可能にするためには、これまでの世界の慣行軌道を変えるイノベーションが不可欠なのです。

(続く)