2021年時点でESG投資の規模は3,400兆円であり、膨大な資金が動いています。一方で、ESG投資自体が仕組みとして未成熟で変化が激しいこともあり、上場企業の多くはESG投資への対応をまだ十分にできているとは言えない状況にあります。
したがって、今、ESG評価を高めることは、時流や市場環境変化に乗り遅れないというだけでなく、企業にとって他社に比べた競争優位を確立するチャンスであり、喫緊の課題のはずです。しかしながら、多くの企業はこれまでやってきた環境や社会への取り組みやCSRの方針・活動をまとめることで、表面的にフォーマットを取り入れてESG対応としています。これは、なぜなのでしょうか?
企業を取り巻くESG評価の状況
その理由は、一言で言えば、多くの企業が「対策が打ちようがない(と考えている)」からです。前章までの内容をまとめると、企業はESG投資に関し、以下のような状況に置かれています。
1 勝手に評価されている
ESG評価機関によって一方的に企業の情報・データが収集され、スコア算出、格付けが行われている。また、それらを使って投資家が任意のスキームで投資判断をしている。
2 照準が合わせづらい
ESG評価機関からは評価結果に関するフィードバックも改善提案もない場合が多い 。また、仮にあっても、評価基準・指標が乱立しており、かつ相関関係が薄いため、どれに照準を合わせて改善を図れば効果が上がるのかが分からない。
3 本質から遠ざかりがち
「ESGスコアを高めよう」という目的で動くと、ESG評価機関と投資家側の都合に振り回されて成果が上がりにくい。そもそもESGがサステナビリティやSDGsのような持続可能な世界をつくるための企業の努力を促すものであるという本来の趣旨を考えると本末転倒になる。
ESGに対応する企業にとっての最適な戦略
しかし、ESG評価機関と投資家の動きを考えれば、「ESG評価を高める」という目的だけであれば企業の最適解は存在します。それは、最も費用対効果の高い対応策を採用していくことです。
1)ESG情報の開示度(ディスクロージャー)を高める
ESG情報の開示度の高さとESGスコアの高さは、どの評価基準においても一定の相関関係があります。そのため、まずは開示できるESG情報をフォーマットに従ってできるだけ多く開示することがESG投資で高評価を得るための最も簡単にできる方法といえます。
開示度を短期間で効率的に高めるには、サステナビリティ報告の基準に沿った対応を行うことが近道です。多くの日本企業に参照されているGRIやSASBなどを見てみるとよいでしょう。気候変動に絞るとCDPやTCFDなどです。日本企業のサステナビリティ報告に関する基準の紹介やガイダンスについては経済産業省と環境省もガイドラインを公開しています。まずGRIの開示項目をそのフォーマットに沿って一通り開示してみましょう。
開示を行うツールの代表的なものは、統合報告書、IRレポート、サステナビリティ・レポート、公式ウェブサイトなどです。これらに、評価項目のフォーマットに沿って目標、取り組み、成果、及びそれらの裏付けとなるデータを開示します。
2)各基準・指標に共通する評価項目に優先的に取り組む
非財務パフォーマンスの面でも、CO2排出量など、評価基準・指標としてESG評価機関で共通するものが一定数あります。将来的な統一の動きを注視しつつ、共通する評価基準・指標の項目に積極的に取り組むことが、ESG評価を高める上では効率的と言えます。
3)成果を挙げやすい評価項目に重点的に取り組む
各基準・指標の開示・評価項目のうち、どの要素に重点的に取り組むか、すなわち「重点課題を特定すること」は、基準・指標の違いに関わらず、ESG評価の基本ルールとして定着しています。これは、投資家側からの視点で投資判断をする上で重要な(マテリアルな)項目、という意味で、「マテリアリティ」と呼ばれています。
そのため、ESGで高評価を目指す企業の多くが、ESGの基準・指標の項目を参照しつつ、自社の得意分野(正の影響の大きい分野)と不得意分野(負の影響の大きい分野)を中心にマテリアリティを定めています。マテリアリティは、自社だけでなく全てのステークホルダーの観点で優先度を決めます。
マテリアリティを定める際に、ESG評価で見られる要素、すなわち方針、施策、成果の面で、自社にとって取り組むことでパフォーマンスを上げやすい分野を特定すると、ESGスコアを高めるという目的では、最も効率的といえます。