概要

 サステナブルファイナンス有識者会議報告書は、金融庁に設置された「サステナブルファイナンス有識者会議」の2021年1月から8回に亘って実施された、サステナブルファイナンスの推進に向けた諸施策についての検討議論を取り纏めたものです。
 報告書では、サステナブルファイナンスに関連する様々な概念が整理されてまとめられています。例えば、サステナブルファイナンスを「持続可能な経済社会システムを支えるインフラ」と明確に定義しています。また、金融資本市場に関わる関係者である投融資先としての企業と、直接金融・間接金融それぞれの資本市場関係者にまたがる横断的論点について、以下の立場を取っています。
(1)ESG要素を考慮することは受託者責任を果たす上で望ましい対応である
(2)インパクトファイナンスの普及・実践に向け、多様なアイディアを
   実装していくことが望ましい
(3)タクソノミニーに関する国際的議論への参画、および、
   トランジション・ファイナンスの推進が重要である

特徴と考察

 本報告書では、これまで様々な定義が乱立していたサステナブルファイナンスについて明確に「持続可能な経済社会システムを支えるインフラ」であるという定義に金融庁としてお墨付きを与えており、サステナブルファイナンスについて共通理解を促進するものといえます。

 また、これまであったESG投資が受託者責任*に反するのではないかという点について、世界的潮流を踏まえ、ESG要素を考慮することは受益者責任を果たすうえで望ましい対応であるとの立場を明確にしています。

 関連して、環境や社会課題に考慮した投融資を行うことで環境や社会課題が改善する「インパクト」と呼ばれる効果を創出する意図したインパクト投資についても触れています。具体的には、これまでインパクトと経済的リターンのバランスについてあった種々の考え方について、上述の受託者責任の考え方を踏まえ、インパクト投資においても市場競争力のある経済的リターンを目指すことが求められている、としています。更に、2021年に金融庁、経済産業省、環境省の3省庁が基本指針を策定したトランジション・ファイナンス**ついて、分野別ロードマップの策定など科学的根拠に基づいて脱炭素に向けてトランジション戦略を策定することを推進しています。

 このように本報告書は、様々な概念を金融庁として整理したうえで、サステナブル・ファイナンスを推進し、持続可能な社会の実現を後押ししようというスタンスを明確にしたものといえます。

*受託者責任:他人の資金を管理運用する者が受験者の利益のために果たすべき責任と義務
**トランジションファイナンス:気候変動への対策を検討している企業が、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取組を行っている場合に、その取組を支援することを目的とした金融手法