昨今、株式市場において、ESGと呼ばれる投資の方法が急速に標準化してきており、上場企業や、これから株式公開を目指す企業は、その対応に迫られています。しかし、実際にはESG投資についてあまり理解していない方も多いように思います。ESG投資とは、そもそも何なのでしょうか?

E、S、Gとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を意味します。ESG投資とは、株式市場における企業価値を従来のような財務的価値、すなわちキャッシュフローや利益率だけではなく、非財務的価値、すなわち環境、社会、企業統治と合わせて評価する新しい投資の方法です。

なぜ企業にとって重要なのか?

1.膨大な資金の動き

ESG投資は近年、株式市場での標準化が急速に進んでおり、2020年時点で3,400兆円という規模になっています。 ESG投資が標準化すれば、SDGsのような環境や社会の課題解決に無関心な企業には、投資のお金が集まらなくなります。

株式市場での評価が下がれば、株価は下がり、市場からの資金調達コストや、企業買収リスクが高まります。株主から経営に対する突き上げも厳しくなり、経営者や従業員の働く環境は、苦しいものになっていきます。

2.急速な標準化

ESG投資は国際的な規制と密接に結びついています。ESGの動きに疎いとある日突然規制により市場競争ルールが変わり、大企業であっても存続の危機に追い込まれるような状況が実際に起きています。

例えば、EUが先行し、国際的に議論が進んできた気候変動の基準に基づき、2017年にイギリス政府は2040年以降のガソリン車とディーゼル車の販売禁止という政策を世界で初めて打ち出しました。 •その後、フランス、中国、米国カリフォルニア州などが2030年代を目途に同様の政策を打ち出し、日本とアメリカの新政権も同じ方向に舵を切ったことから、国際的な標準や規制としてあっという間に広がりました。

3.競争環境の激化

日本の上場企業では既に9割以上が何らかの対処を検討または実施しています。取り組みが遅れるほどに競争力を失っていく状況にあります。「3大メガバンク」、「5大商社」といった財務的な価値で見ると横並びの業界トップ企業群であっても、ESGの観点で見ると大きな差が出ます。

こうした中、各企業のESG対応の習熟度の向上及び競争環境の激化が進行しており、それがESG投資を盛り上げる原動力の一つにもなっています。

どうして盛り上がっているのか?

ESGという言葉は、2006年にコフィー・アナン国連事務総長が始めたPRI、責任投資原則という国連のプログラムの中で初めて使われました。 PRIとは投資家に対して、投資に関する意思決定において、ESGを考慮するという誓約をしてもらうものでした。 2019年時点で、約2,400の年金基金や運用会社などがPRIに署名し、運用資産残高の合計は日本円にして約2,200兆円に達しました。

日本においてESG投資が盛り上がったきっかけは、2015年にGPIFがPRIに署名し、その2年後からESG投資を始めたことでした。GPIFとは公的年金の積立金の管理・運用を預託された公的機関であり、信託銀行や投資顧問会社を通して国内外の債券市場や株式市場で資金を運用しています。

世界の機関投資家の上位を各国の年金基金が占める中、GPIFは2019年時点で約160兆円という世界一の運用資産を保有していました。銀行などの金融機関も含む東証一部上場企業全体の約4分の1の間接的な筆頭株主であり、GPIFがPRIに署名し、ESG投資を始めたことは日本の経済界に強烈な衝撃を与えました。

また、 GPIFは下のスライドにある絵を使い、ESGというそれまでは株式市場における投資家だけが知っていた専門用語を、SDGsという国際共通言語に結び付けて発信し、ビジネスセクターにおける社会課題潮流を勢いづけました。

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