日本において9割を超える企業が SDGs に取り組んでいる背景には、株主や投資家の意識の変化があります。株式市場において、SDGsと同じ方向性を持つESG投資の標準化が急速に進んできており、上場企業や、これから株式公開を目指す企業は、その対応に迫られています。ESG投資とは、株式市場において投資家が企業を選ぶ基準を、経済価値のみから経済価値と社会価値の両方へと変化させる動きです。

本講座でこれまでにも何度か登場したESG投資ですが、そもそも何のことなのか、理解しきれていない方も多いのではないでしょうか。ここでは、ビジネスパーソンが最低限覚えておくべき基本に絞って解説します。

ESG投資とは

E、S、Gとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を意味しています。 lESG投資とは、株式市場における企業価値を従来のような財務的価値、すなわちキャッシュフローや利益率だけではなく、非財務的価値、すなわち環境、社会、企業統治と合わせて評価する新しい投資の方法です。

なぜ企業にとって重要なのか?

1.急速な主流化・標準ルール化

ESG投資は近年、株式市場での標準化が急速に進んでおり、2020年時点で世界全体で3,400兆円という規模になっています。 ESG投資が標準化すれば、SDGsのような環境や社会の課題解決に無関心な企業には、投資のお金が集まらなくなります。

例えば、ESG投資の主流であるポジティブスクリーニングという方式では、評価スコアの上位数パーセント以外は投資対象から外されてしまいます。さらに、投資家が既に保有済みの株式について、ESGにきちんと取り組んでいない企業から引き揚げ、他の優良企業に付け替えるダイベストメントという方式もあります。

2.企業にとって「何もしないリスク」の増大

ESG投資においては、情報の開示度も評価の対象となるため、評価を受ける側の企業は「知らなかった」では済まされません。何も対応しないことは低い評価を受けることを意味します。いうまでもなく、株式市場での評価が下がれば、株価は下がり、市場からの資金調達コストや、企業買収リスクが高まります。株主から経営に対する突き上げも厳しくなり、経営者や従業員の働く環境は、苦しいものになっていきます。

また、ESG投資の潮流は国際的な規制環境の変化と密接に結びついています。気候変動の関連では特に結びつきが強く、ESGの動きに疎いとある日突然規制により市場競争ルールが変わり、大企業であっても存続の危機に追い込まれるような状況が実際に起きています。

3.他社のレベルアップと競争環境の激化

日本の上場企業では既に9割以上が何らかの対処を検討または実施しており、取り組みが遅れるほどにキャッチアップが困難になっていきます。日本は「3大メガバンク」、「5大商社」など、業界トップ企業を横並びにして順位付けする風潮がありますが、ESG投資ではこうしたトップ群の企業間にも売上高などの既存の順位と関係なく、ESGの観点で優良企業として選定されるかどうかで市場における明確な差別化が生じます。こうした中、各企業のESG対応の習熟度の向上及び競争環境の激化が静かに進行しており、それがESG投資を盛り上げる原動力の一つにもなっています。

どうして盛り上がっているのか?

ESGという言葉は、2006年にコフィー・アナン国連事務総長が始めたPRI、責任投資原則という国連のプログラムの中で初めて使われました。 PRIとは投資家に対して、投資に関する意思決定や株主としての企業への介入において、ESGを考慮するという誓約をしてもらうものでした。 2019年時点で、約2,400の年金基金や運用会社などがPRIに署名し、運用資産残高の合計は日本円にして約2,200兆円に達しました。

日本においてESG投資が盛り上がったきっかけは、2017年にGPIFがESG投資を始めたことでした。GPIFとは公的年金の積立金の管理・運用を預託された公的機関であり、信託銀行や投資顧問会社を通して国内外の債券市場や株式市場で資金を運用しています。 l世界の機関投資家の上位を各国の年金基金が占める中、GPIFは2019年時点で約160兆円という世界一の運用資産を保有していました。銀行などの金融機関も含む東証一部上場企業全体の約4分の1の間接的な筆頭株主であり、GPIFがPRIに署名し、ESG投資を始めたことは日本の経済界に強烈な衝撃を与えました。

また、 GPIFは下のスライドにある絵を使い、ESGというそれまでは株式市場における投資家だけが知っていた専門用語を、SDGsという国際共通言語に結び付けて発信し、ビジネスセクターにおける社会課題潮流を勢いづけました。

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