ESG投資は2020年時点で3,400兆円という規模になり、まだまだ伸び続けています。しかし、それだけ大きな社会変化にも関わらず、「誰が何をしているのか?」という実態はあまりよく知られていません。ここでは、ESG投資の具体的な仕組みについて解説します。

ESG投資は誰によって行われているのか?

ESG投資は、投資家、企業、ESG評価機関の3者によって行われています。

投資とは投資家が企業の株を買うこと、つまり、「企業に対してお金を出すこと」です。ここで言う企業とは、これに対し、投資家というのは「株を買う人(企業にお金を出す人)」のことであり、それが会社などの組織であれば「機関投資家」、個人であれば「個人投資家」と呼ばれます。

機関投資家は政府の年金基金、民間の保険会社、銀行、ファンドなどの金融機関や投資企業です。個人投資家は億単位以上の資金を扱うお金持ちのことを指しますが、どこかの会社の株を1株でも買えば、あなたも個人投資家です。

企業は投資家から受けたお金によって事業を行い、そこで収益が出たら、株主に定期的に配当金という形で還元します。また、業績が好調な会社の株は価格が上がります。投資家は投資を行うことによって、継続的に配当金を得られるとともに、株価が上がればその上昇分だけの利益を得ることができます。

ここまでの話で何が言いたいかというと、つまり、投資家の願いは投資先の企業に出したお金を使って業績を高めてもらうことだということです。

このときの「業績」というのは、利益率やキャッシュフローなどの”財務”パフォーマンスを意味します。財務パフォーマンスはお金をベースとしていますから、全てを数字で表現することができ、誰が評価しても同じ計算式を使えば同じ結果になります。投資家はこうした財務パフォーマンスを見て、どの株を買うかを決めます。これが従来の株式市場でした。

ここに“非財務”パフォーマンスであるE(Environment・環境への影響)、S(Social・社会的価値)、G(Governance・ガバナンスの質)という評価軸が加わったのがESG投資です。

しかし、財務パフォーマンスと違って、投資家にとって企業の非財務パフォーマンスを投資判断に入れるのは次の2つの点でとても困難です。

1.比較可能性

基本的に企業による自発的な非財務パフォーマンスの情報公開は形式も中身もバラバラです。投資家側からすれば、知りたい情報の入手が困難である上、企業間の比較ができません。

2.客観性

何をもって環境、社会、ガバナンスにとって「良い」と判断するかには、明確な評価軸がありません。例えば「良い社会とは何か」という問いには政治や哲学の視点も入ってしまい、誰もが賛成する客観的見解は存在しません。加えて、統一した見解を持てたとしても、どんな施策がその目標に効果があるのかは容易には分かりません。例えば、原子力発電への投資はCO2は大幅に削減しますが、廃棄物の観点では大きな問題があります。これは環境にとっては「良い」のか、「悪い」のか、議論の余地のない結論を出すことは困難です。


こうした課題に対し、投資家の判断材料として、企業から集めた非財務パフォーマンスの情報を比較可能で客観的な形にするための評価の「基準や指標(インデックス)」をつくり、各企業を評価した「スコア」を投資家に提供する「ESG評価機関」が存在します。

これらにはSustainalyticsなどESG専門の機関もありますが、多くはBloomberg、S&P Dow Jones、MSCI、FTSE、Thomson Reutersなど、従来からの株式市場における指標や格付けに関わっていた企業やその関連企業が新たなサービスとして立ち上げたものです。新しい産業であるため合併買収が頻繁に起きており、産業構造は今後も変わり続けていくと予想されます。

ESG評価機関は何をしているのか?

ESG評価機関は、主に次の2つの仕事をしています。

1.評価の基準・指標づくり

環境、社会、ガバナンスについて、企業の開示情報の項目、内容、単位、及びスコアを算出の方法などをつくっています。評価基準・指標には、大きく分けて①評価に必要な情報を開示している程度(ディスクロージャー)と、②開示情報によって判明する非財務パフォーマンスの2つがあります。①は議論の余地のない客観的な仕組みがつくりやすい一方で、肝心のESGに関する質の評価ができません。②は逆に質の評価はできますが、前述の通り客観的な仕組みをつくるのが困難です。

現在、ESG評価機関は世界全体で600以上あると言われており、多くは①と②の組み合わせになっています。どちらをどのような比率で重視するか、また、それぞれの評価の仕方は、各評価機関によって異なっています。多くの評価機関は、サステナビリティの観点で企業を評価する指標として国際的に通用してきた米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)のスタンダードやグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)の基準・ガイドラインといったサステナビリティ報告の基準やガイドラインを参照しています。

ESG評価基準・指標の乱立状態は投資家や企業からも不評であり、統一に向けた要望も出されています。現在は評価基準・指標が乱立しているにもかかわらず、世界全体で3,400兆円もの投資資金が実際にその不完全な基準・指標に基づいて運用されている状態であり、早期に是正しなければ市場に大きな歪を生むことになるのは間違いありません。

2020年に、国際会計基準(IFRS)をつくっている国際会計基準審議会(IASB)の母体組織のIFRS財団がこうした基準を統一するための新しい組織を創ることを提案し、SASBやGRIなども賛同していることから、今後、統一されていくかもしれません。現在はまだ明確な先の見通しは立っていません。

2.スコア算出

上記の評価基準・指標に基いて各企業から集めるべきデータを決め、公開情報やアンケート調査などを通じて対象企業の情報を収集し、データベース化します。そして、評価基準・指標の公式やルールにそれらの値を入れて企業毎のスコアを算出し、上位からリスト化しています。このリストは原則的に評価機関内のみで参照される非公開資料となっていますが、提供先の機関投資家や企業等によって一部公開されていることもあります。

なお、公開情報から情報収集される際には、統合報告書やウェブサイト等に掲載されている情報から勝手にデータベース化され、企業側に全く知らされることなく一方的に独自基準で評価されてスコア化されることも頻繁におきています。ESG評価機関のスコアは社債の信用格付けのように企業に購入してもらうものではなく、投資家に購入してもらうものであるため、ESG評価機関はデータベースに必要な情報さえ得られれば良く、企業にコンタクトする必然性はないのです。

ESG評価機関が企業から集めてデータベース化している情報、すなわち、最終的なスコアに影響を及ぼす要素とは、主に1)評価基準・指標の求める開示の量(開示している評価項目の数と種類)と質(適切なフォーマット、評価可能な単位など)、2)各評価項目に対する目標・方針・計画、現在の施策・取り組みの内容、及びそれらによる成果・客観的評価となります。

なお、前述の通り評価の基準・指標が各ESG評価機関によって異なるため、そこで算出される最終的なスコアもバラバラの状態です。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年に調査したところ、日本で最も広く通用しているFTSEとMSCIのスコアについて、双方の構成銘柄のスコアには相関関係がないことが分かっています。

どの評価基準・指標を参照するかは各投資家によって独自で判断されています。大規模な投資家であるほど、その判断はESG投資全体の資金の流れにとって重要な影響を与えています。

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