ここまで見てきた通り、SDGs、ESG、サステナビリティの国際的な潮流が向かっている先とは、社会価値と経済価値の両方によって企業間の競争が行われるような市場を実現することです。消費市場(消費者)、生産市場(取引先・事業パートナー)、株式市場(投資家)、労働市場(労働者)、規制市場(政府などの規制当局)など、企業を取り巻くあらゆる市場において変化が進んでいます。

そのような中で今後、企業が競争力を維持・拡大し、成長と生き残りを実現するために行うべきこととは何でしょうか?

それは、収益追求を第一とする方向から、社会価値と経済価値(収益)の両方を最大化させる方向へ、経営と事業の舵を切ることです。

企業が収益を犠牲にしながら行うCSR・社会貢献活動や、SDGsを広報や営業でのイメージアップに使うだけの収益追求事業とは全く異なるものです。社会課題解決と経営戦略を一体化させ、本業の中心で、競争力と収益力を高めながら社会価値を産み出していくことです。

社会価値と経済価値を両立させたビジネスの例(ネスレ)

共通価値創造(CSV: Creating Shared Value)の産みの親であり、社会課題解決と経営戦略の一体化を進めてきたことで有名な企業として、ネスレの事例を一つ紹介します。

ネスレは途上国の貧困層に対してミロを始めとした驚異的に低価格の栄養機能食品を開発しています。きめ細かく流通網を構築して販売することにより、世界中に熱狂的なファンを数多く産み出しています。

なぜほとんどお金にならない貧困層の課題解決にコストをかけて取り組むのかと言えば、SDGsの達成によって、貧困を脱し、お金を持つようになったネスレの熱狂的なファンたちは、将来、世界最大のブルーオーシャン市場を形成することが予想されるからです。

SDGsを同じ方向性の中で、彼らが中間層になっていく移行を手伝い、そのプロセスを加速させることは、ネスレにとって社会価値と経済価値の両方を最大化し、企業として飛躍的な成長を遂げていくための戦略となっています。

企業にとってSDGsを通した世界の課題解決への取り組みは、次に訪れる持続可能な世界の新たな市場において成長を続けるための、経営と事業に関する本質的な戦略なのです。

ネスレだけでなく、GE、Google、アップル、トヨタなど、グローバル市場のマーケットリーダーの多くが同様の戦略を取り込んでいます。2016年以降はSDGsの潮流により、多くの企業においてこうした考え方が主流化してきています。

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