社会価値と経済価値(収益)を両立させたビジネスのことを「SDGsビジネス」と名づけ、ここではその定義を明らかにしてみたいと思います。
SDGsビジネスは普通のビジネスと何が違うのでしょうか?
下の図は、企業の活動を社会価値と経済価値の2つの軸で表したものです。これを使って説明していきます。
これまでの多くのビジネスは、経済価値の拡大を追求する収益事業であり、③の領域にありました。一方で、社会価値と経済価値を最大化させるSDGsビジネスとは④の領域の事業といえます。
ちなみに、①の社会価値も経済価値も低い領域は、「やること自体に意味がある」ような趣味や娯楽の活動になります。②の社会価値は高くても経済価値が低い領域は収益が発生しないため政府や非営利団体の事業領域です。企業が関われるのは経済価値が高く、ビジネスとして成立可能な③または④の領域となります。
CSRとSDGsの違い
一見当たり前のことを解説しているようですが、この定義の明確化は、私たちの中で混乱しがちな概念をうまく整理するのに役立ちます。
その典型例がCSR(企業の社会的責任)とSDGsの区別です。
もともと1990年代に始まったCSRの考え方は、現在のSDGsの理念と非常に近いものでした。
しかし、企業に実際に取り入れられたCSR活動の多くは、収益を産む本業(③の領域)で発生させてしまった環境や社会への負荷を、収益を産まない社会貢献活動(②の領域)によって埋め合わせるというものでした。
この現在企業の間で広く認知されているCSR論理には、SDGsやサステナビリティ的な観点から言えば、3つの問題があります。
第一に、本業とCSR活動が直接結びついていないので、何をどの程度やるかは、企業の意思に完全にゆだねられていることです。そして、評価軸もはっきりしないので、あまり費用をかけずに小さく行い、大きくアピールしたもの勝ちになってしまいます。
第二に、CSR活動は収益に余裕があるときに取り組むものという認識になりがちです。逆に言えば、収益が厳しい時は取り組まなくてもいいものという扱いです。また、収益が上がったからと言ってCSR活動の量や種類を増やさなければならないということにもなりません。
第三に、多くの場合、本当の意味で環境や社会に対する埋め合わせにはなっていません。
例えば、自動車メーカーの多くは、自社が販売した車が使われるほど、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を発生させてしまうため、植林によってCO2を吸収する森林を育てるCSR活動を行っています。
試しに、この活動をもっとも大規模に行っているある自動車メーカーが年間に販売している自動車が排出するCO2の量と、同社がCSR活動で作り上げた森林が吸収するCO2の量をSDGsアントレプレナーズ独自に試算してみたところ、後者を最大限多めに見積もったとしても10万倍の差がありました。
本業が産み出すCO2の10万分の1の量のCO2を吸収する森林をつくるための植林活動は、企業イメージの向上にはなっても、地球環境へのインパクトはほとんどありません。
SDGsが企業に求めるビジネスとは、本業を通じて経済価値と社会価値の両方を産み出すことです。つまり、収益を上げながら社会と環境にも好影響を与える④の領域で本業のみを行うことといえます。自動車メーカーで言えば、CO2を発生させない再生可能エネルギーの車を開発し、生産・販売することなどです。
社会価値と経済価値の両方を追求する事業であれば、収益が増えるほどに産み出される社会価値も大きくなります。再生可能エネルギーで動く車が売れるほど、発生するはずだったCO2の量が減っていきます。
こうして、持続可能な世界の実現を目指す企業のSDGsへの取り組みを、Sustainable & Scalable(持続可能で拡大可能)なものにさせていくことができるのです。