前章で解説した通り、ESG評価機関は、企業からデータを取得し、独自の評価基準に当てはめてESGスコア(評価点)を算出し、それを投資家に提供することで対価を得て成立しています。その場合、投資家の側は、ESG評価機関から提供されるESGスコアをどう使うことで、投資判断に反映させているのでしょうか。いわゆる「ESG投資」と呼ばれる投資の方法には、次のようなものがあります。

ESG投資の方法

1 ネガティブ・スクリーニング

ESGスコアの低い企業を投資対象から除外する方式です。ESG投資の前身(あるいはより大きなカテゴリ)ともいえる社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)は、もともと1920年代に宗教系の団体が投資先として酒、たばこ、麻薬、武器などの社会的に悪影響の大きな製品・サービスを生産する企業を除外することからはじまりました。そのため、もっともESG投資の最も原始的な方法と言えます。

なお、ネガティブ・スクリーニングは投資家がこれから投資を考えている企業だけではなく、既に投資している企業にも適用されます。ネガティブ・スクリーニングによって投資対象から外れてしまった企業からは、投資家は資金を引き揚げることになります。これは「ダイベストメント」と呼ばれており、企業にとって深刻な投資判断になります。

2 ポジティブ・スクリーニング

ESGスコアの低い企業を投資対象から除外するネガティブ・スクリーニングの逆に、ESGスコアの高い企業を投資対象として選定する方法をポジティブ・スクリーニングといいます。投資対象の企業を上位からESGスコア順に並べ、上位企業のみを投資対象とする方式です。企業が選ばれる際の線引きは、ESGスコアの何点以上という任意のラインが設定される場合や、ESGに基づく規範が定められ、それをクリアしているかどうかを判定する場合等があります。

3 ESGインテグレーション

ESG投資の本来の意義であるキャッシュフローや利益率といった企業の財務的価値と、環境、社会、ガバナンスという非財務的価値との両方を総合的に評価し、投資先の企業を決める方法を、ESGインテグレーションといいます。インテグレーション(Integration)とは、「統合」という意味です。

4 株主権限の行使

株主総会での議決権行使や株主提案、及び企業のIR部門に対する株主としての意見表明など、株主としての権利を活用して投資先の企業にESGへの要求を行うこともESG投資に含まれます。

2020年には京都市のNPO法人気候ネットワークがみずほフィナンシャルグループへに対し、年次報告での脱炭素行動計画の開示を義務化する定款変更を株主提案し、野村やニッセイなど有力国内運用会社も含め、機関投資家の約8割、全体の34%の支持が集まったことが大きな話題になりました。

5 サステナビリティを目的とした投資

グリーンボンドやソーシャルボンドなど、サステナビリティや社会課題解決をテーマに掲げたファンドへの投資や、社会的に好影響のある企業、事業及びコミュニティへの投資などもESG投資に含まれます。

投資側はなぜESG投資にお金を出せるのか?

上記のような方法でESG投資は行われていますが、そもそもなぜ投資家はESG投資を行うのでしょうか?企業の財務的価値だけを追求した投資とは、リターンを最大化する投資です。そうであれば、ESGを考慮することによりリターンは少なくなる、つまり、その分投資家は本来得られるはずだった収益を得られなくなる、つまりは損をすることにはなってしまいます。ESG投資を行う投資家は、持続可能な世界の実現やESGという正義や倫理のために利益を我慢して投資しているのでしょうか?

そうではありません。投資家は、より良い世界をつくるために非財務的価値を重視しているという理由の他に、財務パフォーマンスへの好影響も期待しながらESG投資を行っています。

そもそも、ESG投資の主役である年金基金など、他人から預かった資金を運用している機関投資家には「受託者責任」という法律上の義務があり、預かったお金は市場平均以上のリターンを確保しなければならず、不必要なリスクを資金の提供者側に負担させることができません。そのため、機関投資家の多くは、自らの意思だけでESG投資を行うことができません。

彼らがESG投資を行うことができるのは、これまで実施された様々な株式市場の調査により、ESG投資は長期的な財務パフォーマンス的に見るとややプラスの傾向があり、信用格付けと正の相関関係があることが一定程度認められているからです。

加えて、最近では企業の非財務的な価値であるESGの要素は、機関投資家が長期投資を行う上で当然考慮されるべき新しい必須要素であるとする見方も出てきています。

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