第2作業部会報告書の概要

(1)気候変動の原因
 本報告書では、科学的なデータから気候変動の影響を詳細に分析をしています。そして、人間の活動が気候変動を引き起こしており、自然に生じうる範囲を超えて自然と人間に対して悪影響、損失、損害を生じさせているとしています。その悪影響や損害は、これまでに想定されていたよりもはるかに早く、破壊的で、広範囲に見られていることから、パリ協定やSDGsを達成するには社会・エコシステムを今までよりも抜本的に再構築・強化することが必要であり、これまでの取組は不十分であるとして、今後より大きな変革を起こしていくことを全てのステークホルダーに求めています。

(2)脆弱性とインパクト
 本報告書では脆弱性に関して、地球の人口の4割を越える約33~36億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況の下で生活しており、また、今世紀の終わりには致死的な熱波にさらされる人口は現在の30%から48-76%に増加すると予測しています。もし気温上昇が2.1℃ 以下に抑えられたとしても、アフリカにおいては140万人の子どもがスタンティング(発育不全)になるだろうとしています。さらに、種の大部分が気候変動に対して脆弱であり、動植物がより気温の低い高地に生活域を移動したり、10年間に約59km極地側に移動するなど気候変動のスピードに適応しようとしている現象が確認されているものの、適応しきれない動植物は絶滅の危機にあるとしています。

(3)今ならまだ間に合う~相互依存関係を踏まえた計画・意思決定~
 本報告書は、今後、気温が産業革命前と比べて1.5℃以上上昇すると、こうした脆弱性や種の絶滅に対して取りうるオプションが急速に狭まっていくと警鐘を鳴らしています。しかし、今、エコシステムを持続可能な形で維持・再構築・強化できれば、まだギリギリ間に合うとしています。そして、そのために気候、生物多様性、そして、人間社会の三者が相互依存関係にあること、つまり、一つが変化すればその影響は他の二つに及ぶという認識に立って、全ての政策はもちろん、ビジネスの計画・意思決定においても気候や生物多様性への影響を長期的な観点で考慮することを求めています。

(4)緩和と適応による「気候にレジリエントな開発」 
 具体的には、「気候にレジリエントな開発(Climate Resilient Development)」、すなわち、気候変動とその影響から生じる損害を和らげる「適応」と、温暖化ガス排出の削減を通じた気候変動の「緩和」に向けた行動を組み合わせ、自然と人々のウェルビーイングを改善し、全ての人が持続可能な開発をしていかなければいけないとしています。そして、気温が1.5℃を越えて上昇すると適応の選択肢が急速に失われ「適応の限界」に達することから、適応策の選択肢を維持するため、適応と緩和はセットで実施されなければならないとしています。

(5)5つのシステムにおける変革
 本報告書では、気候にレジリエントな開発を進める上で、5つのシステムにおいて抜本的な変革を起こすことが必要であるとして、以下のような具体的な取り組みを例示しています。

  • エネルギーシステム
    • 石炭から天然ガスへの燃料転換
    • 再生可能エネルギー技術の拡大
    • 産業界のエネルギー集約度の低減
    • 電力系統の強靭性(レジリエンス)と信頼性の向上
    • 発電における水の利用効率向上
  • 陸や海のエコシステム
    • 物理的・社会的インフラへの投資拡大
    • 都市・地域計画の充実
    • ガバナンスと制度的能力の向上による災害後の復旧・復興支援
  • 都市システム
    • マーケットへのアクセス改善
    • 健康的で持続可能な食生活の推進
    • 機関・アクター間の連携強化
    • モニタリングと予測
    • 教育・気候変動リテラシーと社会的学習・参加
  • 産業システム
    • 原料需要の管理
    • 温暖化ガス排出量削減のための新しいプロセスや技術の適用
    • 人材育成と移行支援
    • 生産者責任の拡大
    • 情報プログラム:モニタリング、評価、パートナーシップ、研究開発
  • 社会システム
    • 包括的なガバナンス
    • 女性・若者のエンパワーメント
    • 経済の変革
    • 人々が尊厳のある生活を送り、その能力を高める施策の推進
    • 地方自治体、企業、市民社会団体の関与増大

また、気候変動への適応を評価する上で5つの問いを紹介していますが、これはビジネスにおいても事業が気候に与える影響を考える上で有効な問いと言えます。
 ・気候変動がリスクをもたらすという認識があるか?
 ・現在および将来の気候リスクが考慮されているか?
 ・気候リスクを低減する対応策が計画に含まれているか?
 ・対応策は実行されているか?
 ・気候リスクを低減する実行状況とその効果がモニタリング・評価されているか?

(6)企業への期待役割
 これらのシステム変革や気候にレジリエントな開発を行う上で、企業は「革新的な商品やサービスの供給者」として、革新的な技術、強靭なインフラ、情報システムの開発など、適応に大きく貢献できる特別な能力を持っているとして強い期待が寄せられています。国内においても、令和3年10月に閣議決定された気候変動適応計画においては、「適応ビジネスに携わる事業者は、適応ビジネスを国内外に展開することを通じて、国、地方公共団体、国民、他の事業者及び開発途上国をはじめとする諸外国における気候変動適応の推進に資することが期待される。」としています。
 
 本報告書は「この先10年の我々の行動が我々の未来を決める」としています。大きな期待が寄せられている 「革新的な商品やサービスの供給者」 として、皆さんは自社でこの先の10年何をしますか?

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