前例がないことがチャンス
SDGsを行う上で前例がなく、どのように進めたらよいか分からないという声もよく耳にする。榎本さんも最初はどのように進めればよいか分からないこともあったというが、だからこそチャンスだと語る。
「SDGsは前例がないからこそ、いろいろなことを新しくできた面もあります。ゼロから立ち上げるのは大変でしたが、SDGsはいろいろな方々が一緒にやろうって言って頂けるので、一人で抱え込む必要がないのも大きなポイントです。役所はルールがたくさんあって、乗り越えられないものもありますが、前例に照らして断るのではなく、まずはできるだけいろいろな企業・団体と対話をして間口を広く持っておくということを心がけています。役所で解決できなくても、他の企業を紹介することでプラットホーム機能を果たせたりもするので、いろいろな方とつながりを持つのは大事だと考えています。」
モチベーションは「SDGsへの想い」 x 「楽しさ」 x 「相模原市民の幸福度」
このように、様々な企業・団体との連携や活動を積極的に推進してきた榎本さんのモチベーションについて聞いたところ、今までいつもモチベーション高くやってきたわけではないと前置きしつつ、3つの想いを語ってくれた。先述の「SDGsはやらなきゃいけない」という想いに加え、「楽しむ」と「相模原市民の幸福度を上げていきたい」という想いだ。
インタビューを通じて榎本さんが繰り返し言っていたのは、「楽しい」と感じられるかどうかということだ。そして、振り返ってみると「子どものときに自然の中で遊んだことや、いろいろな人とつながったりというのは楽しかった」という思い出がSDGsの取り組みと企業・団体との連携につながっているという。
また、「幸福度」について榎本さんは次のように話す。
「サステナブルな考え方、行動というのは「幸福度」と関連していると考えています。市民や企業、団体などと行政が一体になって持続可能な世界の実現を目指すSDGsという大きな目標に向かうことで、参画する一人ひとりが社会の一部として参加できていると感じられます。それは今を生きる人達の幸福感につながり、同時に未来のためにもなるのではないでしょうか。」
これは相模原市が2021年に施行した「さがみはらみんなのシビックプライド条例」にもある考え方だ。シビック・プライドとは、まちへの「誇り」「愛着」「共感」をもち、「まちのために自ら関わっていこうとする気持ち」のことだ。貢献実感が幸福度の増大につながるという榎本さんは、「SDGs推進課にはいろいろな人が来るので、そういう人達の想いにはできるだけ応えたい」という。
榎本さんの2030ビジョン
最後に、SDGs達成の目標となっている2030年について、榎本さんのビジョンについて聞いた。
「今後、市がグイグイと前に出て引っ張っていくというよりは特段そういう意識をしなくても自然と企業同士がつながったり、市民が自発的に取組をおこなっていける街になったらいいなと思っています。2030年にはリニアも通っているはずですが、自然と調和した街として、一人ひとりが自然とサステナブルな行動をするとともに、他人を思いやり、多くの人が「幸せ」を感じて暮らせる街になっているといいなと思っています。また、県内のSDGs未来都市や、銀河連邦という宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究施設が縁で交流を始めた5市2町、そして、姉妹都市である中国・無錫市やカナダ・トロント市などと連携していきたいと思っています。」
今回榎本さんにお話を伺い、組織としてSDGsを推進する上で不可欠なリーダーからのサポートなど多くのヒントを伺うことができました。相模原市では、市長がSDGsを推進してきたことから、担当部署の設立をはじめ組織的なサポートが得られています。また、「できることから一つずつ」、ということを実践しています。設立当初は新型コロナ感染症とも重なって思うように行かないこともあったといいますが、ホームページやカードゲームを作ることからはじめ、一歩ずつ巻き込みの範囲を広げていきました。
また、巻き込みの際には、SDGsという共通目標にフォーカスをしつつ、徹底的に相手目線で様々な取り組みを行っています。例えば、入口のハードルをできるだけ低くすること、楯など取組に対するインセンティブを設けること、担当窓口として一旦受け止めること、できない理由ではなくどうしたらできるかを考えること、自分が中心にならないこと等です。
そして、楽しむことを大事にし、SDGsを推進する責任感、相模原市民の幸福度を増大させたいという榎本さんの想い・志がこれらの活動の原動力となっていると感じました。
これらはいずれも自治体はもちろん、企業においてSDGsを推進する際にも大変参考になる取り組みですので、SDGs活動・ビジネスを既に実施している方もこれからという方も是非参考にしてみてください。