魚住:今では様々な事業を展開されていますが、どのようなきっかけで拡大していったのでしょうか?
駒崎:病児保育をやっていると日々社会の課題に触れざるを得ない状況になります。例えば、我々が2010年から始めた小規模保育という事業があるんですけれども、これを始めたのはうちの社員が結婚・出産して、育休を取って戻ってこようと思ったら戻ってこれなくなったっていう事件がきっかけだったんです。なぜかというと子供が待機児童になってしまい、働けなくなってしまって、待機児童問題って本当に深刻なんだなって思い、何とか保育園を増やせないかなって思ったんです。でも当時は都心部で大きい保育園を作るのはすごく難しかったんですね。そこで空き家を保育園に変えることができたらどんどん作れるんじゃないかっていうことに気づきまして、日本で初めて9人の保育園というのを始めました。それが非常に好評でして、結果として国に取り上げられ小規模認可保育所という制度になって今では6,000か所ぐらに広がっています。
吉野:小規模認可保育所という新しい枠組みを国として認めたということで、法律を変えることにつながったということですね。
駒崎:我々NPOの責務としてあるのは、目の前の方々を事業を通じて助けながらも、より多くの方々を支えることが必要だと思っています。現場でがんばりながらもこれを制度や法律に組み込んでくれれば、たくさんの方が助かりますよということで、我々フローレンスだけががんばらなくてもいろいろな人たちが全国各地でこういう小規模保育をやろうということで増えていく訳です。ですから、全国6,000カ所に広がっていますけれども、我々が直接やっているのは十数カ所しかないんですよね。あとは各地のNPOさんや社会福祉法人さんとかが、小規模保育をやろうっていうことで手を挙げてくれています。そういった形で制度や法律を変えることで、点ではなく面として広がっていくよう導いて行けるというところが我々の仕事の良いところかなと思います。
魚住:このコロナ禍で学校に行けずに給食が食べられないなど食事面で困っているというようなニュースを見ますが、そういう状況についてはどう思われますか?
駒崎:このコロナ禍においては、子育て中の困窮家庭は本当に大きなダメージを受けています。我々も相談を日々受けますが、全国各地から悲痛な声が届いています。例えば、飲食店が閉められてしまったときにそこで働く方は多くが女性であったり、非正規雇用だったりしますので、ダイレクトに影響があり、人々の暮らしを脅かしているという状況があります。
吉野:駒崎さんの事業の中で「こども宅食」ということをされていますが、どのような影響がありましたか?
駒崎:そうですね。子ども食堂は有名ですよね。子ども達と親が集まって一緒にご飯を食べようっていうものですが、我々が行っているのは「こども宅食」というもので、食料品を子どもたちのおうちまで届けるという仕組みです。定期的に配送することで定期的に接点ができるので、信頼関係が生まれ、困りごとが聞けて、もし何か困っていることがあるのをキャッチしたらすぐに行政サービスや福祉につないでいくということをしています。元々コロナ前の2017年に文京区で始めた仕組みですが、いま全国に広がっています。このコロナ禍が始まったことで、子ども食堂をはじめとする日本中の集まる形の福祉が集まれなくなり、機能不全になりました。なので、食料を届けるこども宅食が命綱みたいになって、このコロナ禍で全国に広がっていきました。我々もこども宅食をしてくださる全国の団体と結束してコロナ禍で苦しむ困窮世帯に食料品をとにかく届けようということで、全国から頂いたご寄付を食料品に換えて全国規模で数万世帯に食料品を届けるということを続けています。