魚住:以前、日本は、世界の中でも目標の達成度が高い国だという話を伺いました。そんな日本に対して、世界からはどんな期待が寄せられているのでしょうか?
吉野:各国のSDGsの取組の進捗状況をまとめたサステナブル・ディベロップメント・レポートというものがありますが、その中で日本は2021年は18位となっています。18位というのは高く聞こえるかもしれませんが、例えば、女性が社会で活躍するという点においては、特に政治の分野はジェンダーギャップ指数のランキングにおいて147位と下から数えた方が早いという状況です。あるいは、一人親世帯の相対的貧困問題などこれからの実行段階のフェーズ2において、持続可能な社会を創っていく上で日本がやるべきことはたくさんあります。
魚住:足りないところがたくさんあるということですが、他にはどういうものがありますか?
吉野:日本は技術が優れているというのはよく言われることですが、スマートフォンのように各社が要素技術を持っていても、それを統合して新たな価値を出す商品にすることができませんでした。水素自動車の技術は日本が進んでいますが、世界では電気自動車が主流になるなど、良い技術は持ちつつも標準になっていな現状もあります。
このように一見別々の要素を統合したり、大きな流れを形成していく、ということはあまりできていません。SDGsに関しても、日本には江戸時代から循環型社会や近江商人の三方良しという商慣習があったように、元々SDGsになじみのある文化や哲学がありますので、そうした強みを発揮して、いかに世界の流れをリードしていけるか、様々な要素を統合して新たな価値を創造していくか、というところなども課題と言えます。
魚住:残された時間は、およそ8年。すべてを達成することは難しそうですが・・・いかがでしょうか?
吉野:今の状況は例えるなら家が火事になっているみたいな状況だと思います。残り8年で完全消火ができないかもしれないとしたら消火をしないで良いかというと、そうではありません。住宅の火事では、火が天井に届く前に消火することが重要で、一度天井に火が届くと個人では消すのが難しいので逃げた方が良い、という話があります。
地球の状況も同じで、今後産業革命前と比較して気温上昇が2℃あるいはそれ以上越えると、一気に燃え広がり消火できないか、非常に難しくなる臨界点のようなものを越えると言われています。そのような状況では、そうなる前に、たとえコップ一杯の水でも良いので火を抑える努力が必要なのです。今後政府や企業は更なる努力が必要ですが、手が足りない状況ですので、我々個人の一人ひとりが何かできることに取り組んでいくことが重要です。
魚住:2020年以降は、想定していなかった新型コロナウイルスの流行によって、世界が大きく変わってしまいました。目標達成にも少なからず影響がありそうですね?
吉野:コロナ禍のロックダウンにより都市の空気がきれいになったという報道もありましたが、コロナが収まりまた元に戻っているという話もあります。しかし、ただ元に戻るのではなく、我々は進化をしないといけないと思います。それも一部の企業や天才と言われるような人に頼っていては、周回遅れと言われている分野もある日本が世界に追いつくが難しいので、我々一人ひとりが我が事として捉えて、できることをやっていくことが必要です。