ESG投資は2020年時点で3,400兆円という規模になり、まだまだ伸び続けています。しかし、それだけ大きな社会変化にも関わらず、「誰が何をしているのか?」という実態はあまりよく知られていません。ここでは、ESG投資の具体的な仕組みについて解説します。
ESG投資は誰によって行われているのか?
ESG投資は、投資家、企業、ESG評価機関の3者によって行われています。まず、投資家とは、自己資金を持つ個人や組織、及びそこから預かった資金を運用する機関です。
企業は投資家から受けたお金で事業を行い、収益が出たら、配当金として還元します。また、業績が好調な会社の株は価格が上がります。投資家は投資を行うことによって、継続的に配当金を得られるとともに、株価が上がればその上昇分だけの利益を得ることができます。つまり、投資家の願いは投資先の企業に出したお金を使って業績を高めてもらうことでした。
このときの「業績」というのは、利益率やキャッシュフローなどの”財務的な”業績を意味します。財務的な業績は基準が明確であり、数字で正確に表現することができます。
ここに“非財務”パフォーマンスであるE(Environment・環境への影響)、S(Social・社会的価値)、G(Governance・ガバナンスの質)という評価軸が加わったのがESG投資です。
しかし、投資家にとって非財務的な要素を投資判断に入れるのは、次の2つの点でとても困難です。
第一に、企業による自発的な非財務パフォーマンスの情報公開は形式も中身もバラバラです。知りたい情報の入手が困難である上、企業間の比較ができません。
第二に、「何をもって環境、社会、ガバナンスにとって良いと判断するか」という明確な評価軸がありません。例えば「良い社会とは何か」という問いには、一つの正解は存在しません。加えて、統一した見解を持てたとしても、どんな施策がその目標に効果があるのかは容易には分かりません。例えば、原子力発電への投資はCO2は大幅に削減しますが、廃棄物の観点では大きな問題があります。環境にとって「良い」か、「悪い」か、議論の余地のない結論は出てきません。
そこで、非財務的な業績を客観的な形で投資家に提供する「ESG評価機関」が存在します。
これらはSustainalyticsなどESG専門の機関もありますが、多くはBloomberg、S&P Dow Jones、MSCI、FTSE、Thomson Reutersなど、従来からの株式市場における指標や格付けに関わっていた企業やその関連企業が新たなサービスとして立ち上げたものです。合併買収も頻繁に起きており、産業構造は今後も変わり続けていくと予想されます。
ESG評価機関は何をしているのか?
ESG評価機関は、主に次の2つの仕事をしています。
1.評価基準の作成
環境、社会、ガバナンスという企業の非財務的な価値について、評価の基準、及びそれに付随する開示の項目、内容、単位、及び評価点算出の方法などをつくっています。評価基準には、①ディスクロージャー(開示度)と、②パフォーマンス(非財務的価値での業績)の2つがあります。①は議論の余地のない客観的な仕組みがつくりやすい一方、質の評価ができません。②は質の評価はできますが、客観的な仕組みをつくるのが困難です。
どちらをどのような比率で組み合わせるかといった評価の仕方は、各評価機関によって異なっています。現在、世界にESGに関連する評価機関は600以上あると言われており、統一した評価基準は存在ません。他方、多くの評価機関は、サステナビリティの観点で企業を評価する指標として国際的に通用してきた米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)のスタンダードやグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)の基準・ガイドラインといったサステナビリティ報告の基準やガイドラインを参照しています。
ESG評価基準・指標の乱立状態は投資家や企業からも不評であり、統一に向けた動きもあります。評価基準が乱立した状態で3,400兆円もの資金が運用されている状態は、早期に是正されなければ市場に大きな歪を生むことになります。
2020年に、国際会計基準(IFRS)をつくっている国際会計基準審議会(IASB)の母体組織のIFRS財団がこうした基準を統一するための新しい組織を創ることを提案し、SASBやGRIなども賛同しています。
2.評価点の算出
上記の評価基準・指標に基いて各企業から集めるべきデータを決め、公開情報やアンケート調査などを通じて対象企業の情報を収集し、データベース化します。そして、評価基準に基づき企業の評価点を算出します。
各企業のESGに関するデータは、ウェブサイトなどから勝手に収拾され、企業側に全く知らされることなく一方的に独自基準で評価されることも頻繁におきています。
ESG評価機関のスコアは社債の信用格付けのように企業に購入してもらうものではなく、投資家に購入してもらうものであるため、ESG評価機関はデータベースに必要な情報さえ得られれば良く、企業にコンタクトする必然性はないのです。
ESG評価機関が企業から集めてデータベース化している情報、すなわち、最終的なスコアに影響を及ぼす要素とは、1)開示度(開示情報の量、種類、フォーマット、単位など)、及び2)パフォーマンス(目標・方針・計画、現在の施策・取り組みの内容、及びそれらによる成果・客観的評価)となります。
なお、前述の通り評価基準は各ESG評価機関によって異なるため、算出される評価点もバラバラの状態です。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年に調査したところ、日本で最も広く通用しているFTSEとMSCIの評価点には相関関係が全くなく、片方での高評価はもう片方での高評価を意味しないことが分かっています。