SDGsも始まって数年が経過し、いつまでも「SDGsとは何か?」ということを普及している場合ではなく、そろそろ実際の取り組みによる成果が気になるところです。

国連によるSDGsの進捗状況のモニタリング

SDGsの達成状況のモニタリング方法については、SDGsの原典である『我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ』にて、以下の通り定められています。

1.各国政府が、国、地域、世界レベルでのフォローアップとレビューの第一義的な責任を有する。

2.国民への説明責任を果たすため、様々なレベルにおける体系的なフォローアップとレビューを行う。

3.国連総会及び経済社会理事会の下で開催される「ハイレベル政治フォーラム」が、世界レベルのフォローアップとレビューを監督する主要な役割を持つ。

これら合意の上に、国連はSDGsの17ゴール・169ターゲットに基づく進捗状況のモニタリングを行っています。この結果は、国連統計委員会によって合意されたグローバル指標を用いた検証・レビューとして、『持続可能な開発目標レポート(The Sustainable Development Goals Report)』に取りまとめられ、毎年公表されています。上記会合で公表し議論するとともに、ハイレベル政治フォーラムや年に一度の国連総会の機会に正式に世界全体に向けてSDGsの達成状況を発表しています。

現時点で最新版となる2019年度の概要(Overview)は国連広報センターが日本語訳したものがありますので、こちらをご参照ください。ゴール毎に数値を用いて現状が示されており、例えば以下のような内容が書かれています。

全世界で2030年までに貧困に終止符を打つめどは立っていない。約4.6億人が絶対的貧困下に取り残される見通し。

飢餓の中で暮らす人々は数百万人増加。栄養不足人口は2015年の7億8千万人から2017年の8億2千万人へと増加。

5歳未満の死者は減少し続けているが、2017年時点で依然として540万人存在。

約6億2千万人の子どもと思春期の若者が最低限の読み書きと算数の習得ができていない。

7億8,500万人は依然として基本的な飲料水サービスを受けられていない。

都市住民の4人に1人はスラムに酷似した環境で生活しており、20億人はごみ収集サービスを受けられず、10人に9人は汚染された空気の中で生活している。

人口と経済の成長よりも、資源消費量の伸び率の方が大きい状況が続いている。

大気中の二酸化炭素濃度は産業革命前の水準の146%へと増加。

海洋酸性度は産業革命以前との比較で26%上昇している。

生物多様性損失のペースが加速化。生物種絶滅の危険性は過去25年間でほぼ1割増加。

*数値は統計の基準となった2017-2018年を使用

SDGsの現状に関する主だった統計の一覧については、国連広報センターが国連本部のウェブサイトを日本語訳して載せていますので、こちらもご覧ください。

経済協力開発機構(OECD)によるSDGs達成状況評価

経済協力開発機構(OECD)も国連統計委員会の指標をベースとしつつ、OECD独自の指標により、OECD諸国におけるSDGsの達成状況を評価しています。直近の成果としては、2017年6月に『Measuring Distance to the SDG Targets: An assessment of where OECD countries stand』を公表しました。

SDGsインデックス&ダッシュボード

SDGsの達成状況については、国連の公式発表とは別に、非常に多くの関係者に参照されている分かりやすいレポートがあります。

SDG Index and Dashboards Report 2019, Bertelsmann Stifung, Sustainable Development Solutions Network

本レポートに対する解説はこちらをご参照ください。

一覧表などは国名さえ読めれば英語が分からなくても趣旨は理解できますので、是非一度読んでみてください。

本レポートによると、2018年時点の達成見込みは下記のような状況です。

最も進んでいるゴール1でも4割に満たない状況です。多くのゴールが1-2%の国しか達成の見込みがありません。

また、同レポートは国別・地域別にSDGsゴール毎の達成状況についても解説しています。下図はサブサハラアフリカについて示したものですが、非常に深刻な状況にあります。達成状況が良くない順に、赤→橙→黄→緑の色で示されています。

「どこにどんな課題があるのか」という具体的な課題情報は、SDGsに取り組む人や組織にとって決定的に重要です。SDGsの17の各ゴールに関する国内外の状況については最低でも上記のレベルで的確に把握し、常にアップデートし続けていることが重要です。

SDGsの目指す世界の構想

「達成度」を考える際には、どうしても17ゴール、169ターゲット、232指標といった項目、すなわちKPI(Key Performance Indicators)の個々の達成度のみに注目が集まりがちです。

しかし、SDGsのゴールやターゲットというのは、SDGsの描く世界のビジョンを達成するために必要な要素でしかありません。言い換えれば、SDGsが達成度というのは、17ゴールと169ターゲットが達成されたかどうかではなく、SDGsの描く世界が実現されたかどうかが本質なのです。

それでは、SDGsの目指す世界の構想とは何なのでしょうか?

それはゴールやターゲットが統合された一つの世界観です。SDGsの原典である『我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ』の「我々のビジョン」という項目に、次のように書かれています。

我々は、すべての人生が栄える、貧困、飢餓、病気及び 欠乏から自由な世界を思い描く。我々は、恐怖と暴力から自由な世界を思い描く。すべて の人が読み書きできる世界。すべてのレベルにおいて質の高い教育、保健医療及び社会保 護に公平かつ普遍的にアクセスできる世界。身体的、精神的、社会的福祉が保障される世界。安全な飲料水と衛生に関する人権を再確認し、衛生状態が改善している世界。十分で、安全で、購入可能、また、栄養のある食料がある世界。住居が安全、強靱(レジリエント) かつ持続可能である世界。そして安価な、信頼でき、持続可能なエネルギーに誰もがアク セスできる世界。

我々は、人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のない ことに対して普遍的な尊重がなされる世界を思い描く。人種、民族及び文化的多様性に対して尊重がなされる世界。人間の潜在力を完全に実現し、繁栄を共有することに資するこ とができる平等な機会が与えられる世界。子供たちに投資し、すべての子供が暴力及び搾 取から解放される世界。すべての女性と女児が完全なジェンダー平等を享受し、その能力 強化を阻む法的、社会的、経済的な障害が取り除かれる世界。そして、最も脆弱な人々のニーズが満たされる、公正で、衡平で、寛容で、開かれており、社会的に包摂的な世界 。

我々は、すべての国が持続的で、包摂的で、持続可能な経済成長と働きがいのある人間らしい仕事を享受できる世界を思い描く。消費と生産パターン、そ して空気、土地、河川、湖、帯水層、海洋といったすべての天然資源の利用が持続可能で ある世界。民主主義、グッド・ガバナンス、法の支配、そしてまたそれらを可能にする国 内・国際環境が、持続的で包摂的な経済成長、社会開発、環境保護及び貧困・飢餓撲滅を 含めた、持続可能な開発にとってきわめて重要である世界。技術開発とその応用が気候変 動に配慮しており、生物多様性を尊重し、強靱(レジリエント)なものである世界。人類 が自然と調和し、野生動植物その他の種が保護される世界。

17ゴールと169ターゲットをバラバラに捉えるのではなく、一つのつながったものとしての世界観を思い描き、現状からそこへ至るプロセスの中で現在どんな位置にいるかということを考えると、SDGsの達成度ということの本質が見えてきます。

民間企業に期待される役割

現在のSDGsの進捗状況を一言で言えば、「遅い」ということに尽きます。目標や戦略は的確ですし、SDGsは予想以上に盛り上がっていますし、様々なアクターが素晴らしい方法論で日々努力しています。それらは問題ではありません。

問題の核心は、達成に向かうスピードが遅すぎることにあります。言い換えれば、圧倒的な課題の大きさに対して、解決策の投入量が少なすぎることにあります。

この要因は、公共セクターの限界にあります。国際機関や政府などの公共セクターの予算には限りがあり、投入は増やせても倍増ですらほとんど不可能に近い水準と言えます。他方で、2030年までにSDGsを達成するには、2倍、3倍ではなく、10倍、20倍の規模の投入量の増加が必要です。

それでは、誰がその投入量をカバーできるのでしょうか?

それこそが、世界全体から見て民間企業に求められている役割といえます。

より分かりやすくするために、公共セクターと民間セクターでは、どのくらい経済規模が違うのかを考えてみたいと思います。

例えば、トップドナーである日本の国際機関であるJICAや、国連の最大機関であるUNDPの年間の予算額はおよそ5千億円です。この規模でSDGs達成に向けて活動している公的セクターの組織とうのは、他に世界銀行、USAID(米国)、DFID(英国)等、数えるほどしかありません。

一方で、同程度の経済規模で活動を行っている企業は数えきれないほど存在します。

例えば、ソフトバンクの昨年の売上高は約9兆円でした。トヨタ自動車にいたっては30兆円です。日本の大企業は東証一部上場企業だけで2160社(2019年末時点)あります。JASDAQやマザーズまで入れると上場企業は3,663社(同上)あります。株式公開はしていないが規模は大きい会社を含めれば、5,000社以上存在します。世界全体ではその10倍以上になります。

加えて、これら大企業に連なる部品や素材などのサプライヤーや金融・コンサルなど支援体制を創るあらゆる業種の関連企業を加えると、その経済活動の規模は数倍に膨れ上がります。

さらには、科学技術やビジネスモデルの研究開発によって生み出されるテクノロジーやイノベーションが社会に与えるインパクトは計り知れない規模になっていきます。

世界中の公共セクターによる投入量と、民間セクターによる投入量の間には比較にならないほど圧倒的な差があります。SDGs達成の鍵を握るのは明らかに民間セクターの動きなのです。

それが分かっているために、国連や政府としても、MDGs(ミレニアム開発目標)の時代と違って、2016年からのSDGsについては民間企業が主役となって動くことを前提に活動を展開しているという実態があります。