企業にとって最適な対処法を見出すのは容易ではないことを前章までに解説してきました。一方で、現在、ESG投資の主流化とともに、ESG投資やサステナビリティ報告における基準やガイドラインがたくさん産まれており、それらに基づく企業のESG対応の方法はある程度定式化しつつあると言って良い状況にあります。その方法とは、どのようなものでしょうか。多分に経験則によるものになるため、これまで明文化されることはありませんでしたが、ここで多くのESGに関わる人々が考えているある種の暗黙知を書き出してみたいと思います。主には、次に示す4つのステップによるものです。
STEP1 参照する評価基準を決める
まず、ESG評価の基準は乱立状況にあるため、どれを参照するかは自社で決めなければなりません。企業の側から参照できるESGの評価基準としては、ESG評価機関の指標・インデックスの他に、サステナビリティ報告の基準や認証などもあります。サステナビリティ報告の基準や認証は、ESGスコアという形での算出はしませんが、企業の非財務的価値を測るための尺度です。
サステナビリティ報告の基準や認証として有名なものには、GRI、ISO26000、SASBなどがあります。 ESG投資で広く参照されているインデックスには、FTSE、MSCI、Dow Jonesなどがあります。 様々な組織により開発と普及が行われてきており、これ以外にも多くの基準、指標、認証、ガイダンスなどが存在します。
STEP2 自社の非財務パフォーマンスを測定する
評価項目を自社の活動に当てはめ、求められている定量・定性的なデータを抽出します。この際、自社の活動とは、自社の製品やサービスが顧客のもとに届くまでの全ての事業活動を機能ごとに分割して考えます。 例えば、主な活動として、原材料の調達、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスがあり、それらを支える横断的な活動として、全般管理・インフラ、人事・労務管理、技術活動、調達活動などがあります。さらに、製品の場合は、販売後の顧客による製品の使用と廃棄についても考慮に入れます。
STEP3 重点課題(マテリアリティ)を特定する
ここまでの作業を通して、自社にとっての課題、すなわち、強みとして伸ばしていくべき正の影響と、弱みとして最小化していくべき負の影響が明らかになります。出てきた課題は、「自社にとっての重要性」と「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの評価軸で優先順位をつけます。 ステークホルダーとは、顧客、株主、従業員、事業パートナー、規制当局、及び地域や社会全体など、関係する全ての人々や組織のことです。その中で最も優先順位の高い課題群を自社が優先的に取り組む課題、すなわち「重点課題(マテリアリティ」として特定します。
STEP4 経営計画や外部向け報告書として取りまとめる
ここまでに特定した評価項目毎のデータとして、今後の目標、現在の取り組み、これまでの成果を内外に向けて公開します。外部公開という面では、統合報告書を財務と非財務の両方のパフォーマンスを開示するレポートと位置づけ、財務面の詳細はIRレポート、非財務面の詳細はサステナビリティ・レポートに取り纏める方法がESG評価の観点からは合理的です。年次報告書やCSRレポートで代用している企業も多い状況ですが、自社独自のCSRの考え方や施策を並べただけの従来のレポートと、評価基準を意識してつくられたレポートとでは、実際にESG評価において開示度において明確な差が出ます。
ウェブサイトは上記レポートのダウンロード機能とともに、自社のサステナビリティ解説できる有用なツールですが、全体が評価者視点で整合性を持って説明されている企業は多くありません。