これまでの講座では、「なぜ企業はSDGsを実践すべきなのか?」という疑問に応えるとともに、SDGsが企業の経営や事業にもたらす奥行きの広さを解説してきました。
また、SDGs実践プログラムでは、「企業がSDGsを実践するにはどうしたらよいか?」という方法論をコンサルティングや研修をコンサルティングや 研修を通じて提供しています。
こうした実務の中で企業な方からよく受ける質問に、
「企業のSDGsへの取り組みとして、成功事例と言えるものはどこにあるのでしょうか?」
または、
「SDGs実践がうまくいっている企業はどこでしょうか?」
というものがあります。
これは、SDGs発足当時の2016年ごろには、聞かれると「うっ」と詰まる質問でした。まだSDGs自体が始まったばかりで、最先端の企業ですら「勉強中」または「既存の取り組みや今後のビジョンとの整合性を検討中」というステータスだったためです。どちらかというと、「企業はこうすべき」、「海外ではこうやっている」といった理論先行だった感は否めません。
しかし、2020年現在では、企業のSDGsへの取り組み事例は、既に非常に多く存在し、公開されています。参照すべき事例は、自社の事業領域やSDGsの活用目的等により異なってきます。本章では、いくつかヒントとなるリンク先を紹介したいと思います。
まず、SDGsよりも遥か前からSDGsの提唱する理念に沿った経営や事業を推進してきた例としては、海外では、ネスレ、P&G、ユニリーバ、ダノン、ホールフーズ、GE等はいろいろな場所で共通して高く評価されていれています。
海外の事例は数多くあり、本ウェブサイトの中にも先進事例データベースの中に多様なデータベースを掲載していますので、是非ご活用ください。
海外のSDGsやサステナビリティ関連の優良企業のアワード・ランキングは無数にあります。主要な例として、世界経済フォーラム(WEF)の2020年の年次総会(ダボス会議)でも共有されたカナダのコーポレートナイツ社が世界7,500社を対象に最も持続可能な企業を評価した「Global100」ランキングなどもあります。
他方で、日本において多くの企業がより関心があるのは日本企業の事例かと思います。
日本におけるSDGsは、遅れをとっていたCSVやサステナビリティというビジネスの要素を、SDGsを起爆剤にすることにより一気にキャッチアップしようとしているともいえます。あるいは、もともと先進的であった取り組みがきちんと国際的な共通言語で語られてこなかったため、改めて再定義・再説明をしている状況と言えます。
そのため、この分野で日本において「誰もが疑問の余地のない先進的な企業または取り組み」を挙げるのは少々難しい状況です。
一方、ESG投資の進展等とも相まって、優れた企業や取り組みを評価する試みは急展開で進展してきています。現状では、例えば以下のようなランキングやアワードを得ている企業は、総合的に国内において先進的と評価できるように思います。
【日本企業のSDGsへの取り組みに関する主な比較評価】
ESG指数―ポジティブスクリーニング 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
ジャパンSDGsアワード JAPAN SDGs Action Platform・外務省
日経SDGs経営調査2019「SDGs経営」総合ランキング 日本経済新聞社
それぞれどのような考え方で企業を評価しているかは参照元により異なります。詳細はリンク先に説明がありますので、直接ご覧ください。
また、別の見方として、世界のランキングやアワードの中に食い込んでいる日本企業をチェックしてみる方法もあります。
例えば、CSV提唱者であるハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・ポーター氏が2000年に創立した社会貢献をグローバル規模で支援するコンサルティング企業のFSG社は、フォーチュン誌と共同でCSV事業の先進企業50社に関する世界ランキングを2015年以降毎年発表しています。この中では、常連としてトヨタ自動車、その他にも伊藤園、パナソニック、NTT等が選出されています。
まずは国内の視点でどのような日本企業が先進的と評価されているかについて、具体的なイメージを持つため、一例として、日経のSDGs経営総合ランキングでリストアップされた企業を見てみたいと思います。
【日経SDGs経営調査2019「SDGs経営」総合ランキング】
<偏差値70以上>
キリンHD、コニカミノルタ、リコー
<偏差値65以上70未満>
アサヒグループHD、アンリツ、イオン、エーザイ、MS&ADインシュアランスグループHD、小野薬品工業、オムロン、花王、コマツ、サントリーHD、資生堂、清水建設、セイコーエプソン、積水ハウス、セブン&アイHD、ソニー、SOMPO HD、第一三共、ダイキン工業、大日本印刷、大和ハウス工業、東京海上HD、東芝、TOTO、日本たばこ産業、パナソニック、富士フィルムHD、ブリヂストン、丸井グループ、三菱ケミカルHD、ユニ・チャーム
<偏差値60以上65未満>
旭化成、アシックス、アズビル、伊藤忠商事、NEC、NTTデータ、NTTドコモ、大阪ガス、オカムラ、カゴメ、川崎汽船、キャノン、クボタ、KDDI、コーセー、塩野義製薬、島津製作所、信越化学工業、SCREEN HD、SUBARU、住友化学、住友商事、住友林業、積水化学工業、セコム、双日、大陽日酸、高島屋、田辺三菱製薬、タムロン、大東建託、ダイフク、大和証券グループ本社、中外製薬、TDK、帝人、DIC、ディスコ、デンソー、東急不動産HD、東京エレクトロン、東芝テック、東レ、戸田建設、トヨタ紡織、豊田合成、ニコン、日産化学、NISSHA、日清食品HD、日清紡HD、日本精工、日本郵船、野村HD、日立キャピタル、日立製作所、日立ハイテクノロジーズ、ファーストリテイリング、ファンケル、フジクラ、富士通、富士電機、ブラザー工業、ホンダ、ポーラ・オルビスHD、みずほフィナンシャルグループ、三井化学、三井住友トラストHD、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産、三菱自動車、三菱重工業、三菱電機、ミネベアミツミ、村田製作所、明治HD、ヤマハ、横河電機、横浜ゴム、ライオン、リコーリース、りそなHD、レンゴー
*参考まで、上記と関連する「日経SDGs経営大賞2019」では、大賞:コニカミノルタ、SDGs戦略・経済価値賞:オムロン、社会価値賞:イオン、環境価値賞:リコーがそれぞれ受賞しました。
こうしたランキングやアワードを参照する際に注意が必要なのは、評価の基準が多様であり、評価側も一社一社正確に状況を把握しているとは言えないことです。この原因としては、企業やその取り組みの社会価値を評価する仕組みはこれまでなかったため、玉石混合の評価者が乱立状態である上に、評価側の能力もまだまだ低いこと、加えて評価される側の企業の情報開示度にも大きなばらつきがあることが挙げられます。
そのため、名前が挙がっていなくとも、革新的な取り組みを行っている企業も多数あります。評価の完成度は今後、上がっていくことが予想されますが、現状では絶対的な基準ではなく、一つの目安として考えるのが妥当です。
なお、個人で扱える単純な評価基準として、SDGsに対して本当に優れた取り組みかどうかを知るには、DAY9で解説した「Sustainable(本業での持続可能な取り組みか?)」と「Development(真の変化につながっているか?)」という尺度で見ると大雑把にはどの程度意味のあるSDGs実践をしているかは把握することができます。
試しに、経団連の「Innovation for SDGs―Road to Society 5.0」に載っている事例について同尺度を使って優劣を考えてみると、より「企業の活動がSDGs的に意味があるとはどういうことか」について理解を深めることができるかと思います。
なお、SDGsについて先進的な企業の取り組みの詳細は既に各社が外部向けのレポートにまとめています。中でも味の素グループの経営ビジョン、NTTドコモのCSRレポート、日立の統合報告書、トヨタ自動車のSustainability Data Bookなどは秀逸なので、是非参照してみてください。
ただし、SDGsは経営戦略そのものに関わることが多く、本当に重要な情報は内部情報扱いになっていることが普通です。これら外部向け情報を参照したのみで、当該企業のSDGsの取り組みの全てを理解したつもりにならないよう注意が必要です。
こうした先進企業やその取り組みから、自社にとって本当に参考となる事例を発見できるはずです。そこからSDGs実践に役立つ数多くの洞察を引き出した上、自社独自の取り組みを構築していく姿勢が何よりも重要です。
その他、弊社代表理事の執筆した書籍『小さな会社のSDGs実践の教科書』より、企業のSDGsへの取り組みの優良事例集の参照元を以下の通りご紹介します。