前章で指摘してきたように、企業のSDGs実践を社会価値の高い取り組みにするためには、企業の担当者や担当部署は何を考える必要があるでしょうか?

SDGs実践の具体的な方法論については、SDGsパートナープログラムにて、本格的な研修やコンサルティングを通して提供しています。ここでは、基本中の基本として、とりあえず“SDGsウォッシュ”を確実に避ける方法をお伝えします。

空雨傘」というビジネスフレームワークを使って、解説したいと思います。「空雨傘」とは、思考を行動に変換するための定石論理です。空とは「事実」、雨とは「洞察」、傘とは「意思決定・行動」を意味します。

「出かける際に傘を持っていく」という意思決定・行動をするとします。その場合、まずは空を見上げ、「北の空に雨雲が見える」、「強い風が北から南に吹いている」といった事実を確認します。すると次に、「だとすれば、あの雨雲はこちらに流れてくるのではないか」、「そうなると、もうすぐ雨が降るのではないか」といった洞察が出てきます。そして、「であれば、傘を持って出かける」という意思決定・行動にたどり着きます。

事実(空)に支えられていない洞察(雨)はただの思いつきであり、他者を説得できないばかりか、それにもとづいた意思決定・行動(傘)は大失敗のリスクを伴います。また、事実に支えられていても洞察のない意思決定・行動には深みがなく、インパクトのない凡庸なものになります。また、事実にも洞察にも支えられていない意思決定・行動から継続的な成果を得ることはできません。

このフレームワークの言っているポイントは次の2つです。

(1)3つの要素は全く別のものとして扱うべき

(2)空→雨→傘という思考の順番を守り、必ず傘までたどり着くべき(空や雨で止めない)

これを企業のSDGs実践に当てはめて考えてみます。

例えば、SDGsに取り組むほぼすべての企業やっている「SDGsラベル貼り」、即ち自社の製品・サービスや事業などにSDGsゴールの数字と割り振りロゴのラベルを貼っていく行為は、空雨傘でいえば「空」に相当します。

この行為自体を悪い取り組みとはいえません。むしろ、事実として自社の現状をSDGsという軸で確認する行為であり、SDGsへの企業の取り組みの出発点として必要なプロセスの一つと言えます。

では、なぜこれが”SDGsウォッシュ”の典型例として批判されてしまうかというと、ここで取り組みが終了してしまうからです。本来は、事実(空)の分析から洞察(雨)を出し、本質的な企業の活動として意思決定・行動(傘)を起こしていくところが本番です。しかし、SDGsウォッシュは整理した事実をそのまま広報媒体として外にアピールして終わってしまいます。

また、事実(空)の分析として見ても、視野が狭すぎることも問題です。既存の製品・サービス・事業をリスト化し、SDGsゴールのラベルを貼るという考え方には次のような致命的欠陥があります。

■製品・サービス・事業のみを分析対象にしており、経営、組織、マーケティング、広報、CSR、IR等々、それ以外の活用可能性が視野に入っていない。

■製品・サービス・事業のみのカテゴリで考えても、既存事業、研究開発中の新規事業、全くの新規事業、他社との共創、サプライヤーやパートナーを含むバリューチェーン全体といった広がりが視野に入っていない。

■SDGs×自社の製品・サービス・事業という分析だが、SDGsの潮流を形成する全体構造(”ソーシャル氷山”)のうち一番表層の「市場環境の変化」しか考えておらず、「社会構造化」も「共感」も全く理解していない。手っ取り早く外部から良く見られることだけが最終目的になっている。

「SDGs×自社」という構図で事実分析から始まることは、企業のSDGsの取り組みとして正しい始め方と言えます。肝心なことは、そこで思考停止して外部広報へ逃げてしまわないことです。事実分析(空)から核心的な洞察(雨)を産み、それらを組み合わせて企業としての革新的な意思決定・行動(傘)に繋げていくことが、企業のSDGs実践の本質であると言えます。